大学数の増加に関するコメント


 「資産家の財テク・学校法人設立で増加した私立大学。戦後これだけ大学は増加。しかも少子化だとわかっている1990年代から2010年までの増加が甚だしい。大学卒業しても稼げぬ人が増加するのも納得。これだけの大卒を吸収しうる雇用、経済発展もないままに単に大卒だけを生み出した。このような主張が行われていた。」という主張がSNSで行われている。確かに学校法人には「家業」という側面はあるものの、「稼げぬ人が増加」という言葉とは平仄が合わない事実もあるかもしれない。
 
cir.nii.ac.jp
 この論文は2010年代の新設大学の特徴を以下のようにまとめている。

表2には,2009年から2018年までの10年間で新たに開設された大学および学部等設置組織の一覧が示されている。開設された大学は,公立大学が10校,私立大学が42校の合計52校であり,設置された組織の内訳については,64の学部,87の学科,および28の専攻であった。新たに開設された64の組織について,具体的に見てみると看護学部が14(21.8%),保健,医療,リハビリテーション等(医療系)学部が16(25.0%),教育学部が8(12.5%),健康,食物,栄養等(健康系)学部が6(9.4%)であった。また,新たに開設された87の学科のうち看護学科は26(29.8%),医療系学科は10(11.5%),教育系学科は8(9.2%),そして健康系学科は5(5.7%)であった。とりわけ新規の専攻についてわずか28の開設にとどまっていたが,そのうち17(60.7%)は理学療法,あるいは作業療法を専門とする専攻であった(図2参照)。また,新たに開設された大学のうち,26校(50%)において看護学部あるいは看護学科を有している。つまり,2009年以降に開設された大学のうち半数以上が看護,保健,医療等を専門とする組織を持ち,他にも,柔道整復や鍼灸放射線技術など医療系の学科や専攻を有する大学の開設が多く,組織の名称については,保健医療や健康科学といった名称の学部に,看護や理学療法,あるいは栄養などの学科や専攻を持つ分野複合型の組織が目立つ。
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 医療系と教員養成系が多くを占めているのである。職業養成の分野は「稼げぬ人」を生み出しているとはいえないだろう。また、文部科学省のウェブサイト新設大学等の情報:文部科学省によれば、2019年以降の新設大学は次のとおりである。

 やはり看護や幼稚園・小学校教諭といった「専門職」の養成を行う大学がほとんどである。その例外であっても工学部、ソーシャルシステムデザイン学部という「稼げぬ人」の輩出という印象からは外れるような学部である。
 では、元々の主張であった1990年から2010年頃はどうだったか。残念なことに、この問いを解くためのデータをいますぐ提供することができない。かつて文部科学省は大学一覧をウェブで公開していなかったため、外郭団体が販売する厚い冊子を購入する必要があり、その冊子から新設年度を1校1校拾わなければならないのである。なお、正確かどうかは不確かではあるものの、以下のウィキペディアは参考になる。
ja.wikipedia.org
 このページの後半部分「四年制大学等に改組・統合されたもの」のうち、もとの主張に即せば「統合」ではなく「改組」された機関が大学の「増加」に相当する。たとえば、秋田桂城短期大学秋田看護福祉大学に、麻生福岡短期大学九州情報大学に移行している。四年制大学となった際の新設学部もまた、医療系や教員養成系が目立つようにもみえる。
 残され課題が2つあり、これは大学生が調べて考察する宿題にもなり得る(高等教育論の研究者はおよその回答をもっている)。第1に、それでもなお1990年から2010年頃の「増加」について説明を尽くしているわけではない。その他にはどのような学部の傾向があったか、もしくは、やはり医療系、教員養成系が多かっただろうか。第2に、なぜ短期大学が四年制大学へ移行したのか、なぜ四年制大学が医療系と教員養成系が担うようになったのか。