学びのリテラシー2「若者について考察する」アンケートへの回答

 群馬大学には「学びのリテラシー2」という全学必修の教養科目がある。私はそのうち「若者について考察する」という科目を担当している。その科目に関する授業アンケートの自由記述に対して回答しておきたい。
 学びのリテラシー2のねらいは次のように説明されている。

少人数のゼミ、講義、演習で行い、各教員が専門としている分野を中心に、課題の見つけ方、分析の仕方、発表の方法、文章のまとめ方など、これから4年間ないし6年間にわたる大学での学びにおいて求められる基本的な方法を修得させる。さらに、各学問分野に共通の思考力・判断力・表現力等を養い向上させることを目指す。
カリキュラム | 群馬大学 大学教育センター

概ね最大40人を上限として、主として1年生が履修する「初年次科目」である。学びのリテラシー1が学部・学科ごとに開講されるのに対して、学びのリテラシー2は学部横断的に履修が可能である。通りすがりに「私は理工学部だけれども、せっかく総合大学へ入学したので昔の英文学を習ってみたいので〇〇を履修してみた」、「他の学部の友だちができて良かった」といった会話を聞いたことがある。1年生でほぼ教養科目の履修を終えてしまう学部・学科においては貴重な学習の機会、友だち作りの機会となっているようである。
 さて、授業アンケートで次のような趣旨の自由記述を頂くことがある。それは、「毎回、必ず出席をとったほうが良い」、「遅刻すると注意されることがあるので、遅れそうな学生は休んでいた」(原文を修正済み)といったものである。表面的な回答は「出席は毎回授業後のLMSへの、授業中のディスカッションをふまえた考察の入力によって確認している」、「1つのグループが4~8人程度でディスカッションを行うゼミナール形式の授業であることから、他の学生の学習の進捗を妨げることになる大幅な遅刻に対しては、やむを得ない事情の有無を確認しつつその場で不利益を被る他の学生がいることを説明しなければならない」である。そのうえで、難しい課題となっている可能性はあるものの、もう少し踏み込んだ回答をしてみる。それは、「出席については教員任せにしないで自分自身でノートやスマホなど駆使して記録を取っておこう」、「遅刻に対しても教員が指導を行うまでもなく、学生どうしで気を付けてみよう」である。この回答はおそらく期待を裏切るものになっているだろう。出席をその場で「とってもらう」ことで安心感を得たかったり欠席者に対して見せしめの罰則を与えたかったりする場合には、空振りの回答になっているはずである*1。しかし、「大学生になる」ために教員を使うことなく自らの心情を安定させようとしてほしいのである。群馬大学ではあまり見かけないものの「あと何回授業を休めますか?」、「欠席に対する救済措置はなんですか?」、「レポートを提出すれば単位を取得できますか?」という教員に対する質問も同じ課題である。なお、最後の質問に対して想定される回答は「提出されたレポートを読んで、評価をしてみないとわからない」であろう。また、学生どうしで気を付けるというのも肩透かしの回答である。大学生として同じ仲間であるのだから遅刻をする学生に対して注意を促してほしいものの、そうした行動がまったく見られなかったために教員が指導を行うことになった。「大学生になる」ために先ほどと同じようになるべく自分たちで何とかする姿勢を身につけてほしい。授業中にも説明したとおり、大学で教室の照明が落とされていたり空調が不十分であったりするとき、さてどうしようかという問いにつながっている。
 とはいえ、これらのことは現代の発達課題のようなことがらであり、すぐに解決できるというわけではないだろう。そのため、次年度からはいわゆる「大福帳」を導入することを検討している。とりあえず、「出席していることがLMSではなくその場で認識された」という安心を提供することができる。ただ、それは自分でいろいろなことを何とかする、ということの歩みを少しゆっくりにさせてしまう危惧を残すものである。

すべての授業で大福帳を使おう
kogolab.wordpress.com

*1:私が知っている渡辺雅男という学者はかつて、学籍番号が書かれている提出物に対して「自ら番号で管理されるようになってしまった気分はどうかな?」みたいな問いかけをしていた。