意識と行動―「お笑い番組は笑い声が入ったほうが面白い」

 経営の実践に関心のある方によく読まれている書籍を復習する。ご商売のセールス現場だけではなく、教育機関でも活用(悪用?)されているかもしれない。私はときどき使うことがあるかもしれないので、学生の皆さんはお気を付けください。

募金カード
 メヒシバ防除協会
 見苦しいメヒシバ(雌日芝、イネ科の雑草)を駆除することは可能です。しかしそれには、あなたのようにこの問題に関心をもった市民の方々の協力が必要です。みなさまの温かいご協力があれば、研究を推進させ、メヒシバのない世界を作るという私たちの目標を達成することができるのです。みんなで手をつなぎましょう。メヒシバ防除協会に寄付をお願いします。返信用封筒を同封しましたので簡単にできます!
ーーーキリトリ線ーーー
 メヒシバのない世界を目指す活動に賛同し、下の寄付金を同封します。
□25ドル  □10ドル  □5ドル  □15ドル  □__ドル
 氏名:
 住所:
 州:     市:    郵便番号:
メヒシバ防除協会:私書箱5-CG ローン市, USA 12345
p.31

 メヒシバ防除協会への寄付金の額の代わりに、学生自らが今週の宿題の量(ページ数)を選択するようにしよう。左から、25ページ、10ページ、5ページ、15ページという選択肢が示されていたら、どれくらいの学生が15ページを選択するだろうか。

 社会学者や人類学者によると、人間文化のなかで、最も広範囲に存在し、最も基本的な要素となっている規範の一つに返報性のルールがある。このルールは、他者から与えられたら自分も同じようなやり方で相手に返すように努めることを要求する。返報性のルールは、行為の受け手が将来それに対してお返しをすることを義務づけるので、人は自分が何かを他者に与えてもそれが決して無駄にはならないと確信できる。このルールに将来への義務感が含まれることによって、社会にとって有益なさまざまな持続的人間関係や交流、交換が発達することになる。したがって、社会の全構成員は、このルールを忠実に守るべきこと、守らないと重大な社会的不承認を被ることを子どものころからたたき込まれる。
p.91

 事務手続きの書類の提出締切りが3日後だったとしよう。そこで、非常に厳しい交渉の結果、締切日は6日後に延長されたと伝えた場合、どのような結果になるだろうか。いや、このケースでは返報性はあまり効かないのかもしれない。同書93ページに紹介されているように、学生が教員に対して頼みごとをする際に「拒否したら譲歩」テクニックを利用する方が簡単だろう。

 私は訓練期間を終えたばかりの新人グループを選び、ほかの営業が使っている勧誘手法に修正を加えました。その方法とは、ほかの営業とまったく同じ「決まりきった」商品案内だったのですが、電話の最後におまけの質問をするよう指示したのです。客が予約を取ったときに、ただ電話を切るのではなく、こう言わせたのです。「最後にちょっとお尋ねしたいのですが、当社の保険をお選びになった理由をお教えいただけますか?」。
 当初の目論見では、ただ顧客情報を集めたかっただけでした。しかしこの質問をさせた新人たちはほかの新人営業よりも二割近く売上を伸ばしたのです。
p.121

 「コミットメントと一貫性」の事例として紹介されているものである。教員は特に意識することなく学生のコミットメントを獲得するように行動している可能性もある。たとえば、既述の宿題の量の選択もそうである。強制的に与えられる宿題ではなく、(それはよく考えてみれば与えられたものにすぎないのだけれども)自ら選び取った宿題であれば、それに取り組み具合は強いものになるだろう。保険勧誘電話の事例と同様のものとしては、履修動機を尋ねるというものである(私はこれを昔からよく実施している)。動機を意識する(してしまう?)ことで一貫性の原理が働きやすくなる。

 社会的証明の原理によると、人がある状況で何を信じるべきか、どのように振る舞うべきかを決めるときに重視するのが、ほかの人びとがそこで何を信じているか、どのように行動しているかである。他人を模倣しようとする強い作用は、子どもにも大人にも見られ、また、購買における意思決定、寄付行為、恐怖心の低減など、さまざまな行動領域で認められる。
p.263

 このエントリのタイトルにある「お笑い番組は笑い声が入ったほうが面白い」の説明である。他人がお笑い番組を面白がっているという「社会的」な根拠があるからこそ、安心して自分も面白がることができる。昭和の時代のドリフターズや、外国でもMr. ビーンや多くのシットコムのようにあからさまに「サクラ」であっても他人の笑い声が重要である。最近ではCovid-19問題で無観客にせざるを得なかったお笑いコンテストで、笑い声を入れられないゆえの芸人さんの苦労という問題が指摘されていた。エスニックジョークで「日本人」が持ちだされる場合にも、この他人を模倣することが正解という思い込みが提起されるだろう。学生が他の学生、特に先輩と同じような講義を履修するのも単に「楽単」だからということに加えて、この「社会的証明の原理」が効いていることもある。私はシラバスに昨年以前の履修学生の「声」を掲載することで、この「安心感」のようなものを提供している。
 『影響力の武器』は経営実践のためだけではなく、以上のような「悪い」人の企みに気付くために、何度も繰り返して読んでおきたい。