- 作者:
- 出版社/メーカー: 東信堂
- 発売日: 2019/12/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
私にとってもっとも興味深かったのは、そうした統計分析ではなく第2章「大学上級管理職向け研修・教育プログラムの現状と課題」である。地味な情報収集ではあるものの、国立大学協会、公立大学協会、日本私立大学連盟、日本私立大学協会、日本私立学校振興・共済事業団、政策研究大学院大学、東北大学が実施している数多くの研修プログラムが挙げられている。読者はこんなにたくさん研修プログラムが存在していたのかと驚くはずである。統計分析ではこうした研修参加経験を独立変数に入れているとはいえ、効果の実態についてはまだこれから研究課題であるのだろう。そして、日本IBMの天城学長会議にも言及されている。この研修についても冒頭に述べた経営学の先行研究―トップ・マネジメント層を対象とした、しばしば高額の参加費を徴収するような少人数の研修についての研究―との比較によって、明らかになることもありそうだ。
日本IBMが1983年から社会貢献の一環で実施している学長会議である。静岡県伊豆市にあるIBMの研修施設「天城ホームステッド」が会場であるため、そこから名前を取り、天城学長会議という。7月下旬に、2泊3日の合宿方式で行っていること、設置者を超えて国公私立大学の学長が対象の会議という点で、きわめて特徴的である。代理出席は認めておらず、学長だけが参加できる。開催記録である過去の報告書をみると、講演、分科会に分かれた集団討議、その後の全体討議というスタイルでほぼ開催されている。分科会は4-5個になるが、それぞれのグループに国公私の学長がバランスよく、分けられる。合宿形式なので、夜はざっくばらんな情報交換会になる。その大学から参加しているのは学長ただ一人ということもあり、気軽に意見交換ができるのではないかと思われる。調査時点で35回目、延べ1550名程度の学長が参加してきたという。
研修施設のキャパシティの限界もあるので、毎年、約180大学の学長に案内をだし、結果的に50大学前後の学長が参加している。学長は忙しいので、2泊3日のすべてに参加できるとなるとだいたいこれくらいの参加者数になるという。最近のテーマは、少子化を超えて―2040年の世界と大学―(2017)、日本の大学のブレークスルーを目指して―学位プログラムと教育研究組織を考える―(2016)、大学のアドミッションを考える―中教審答申を受けて―(2015)となっている。IBMはあくまでも事務局で、案内を出す学長を決定しているのも、テーマや会議内容を検討しているのも、8名程度からなる世話人会の学長たちである。
pp.50-51
グーグルで「天城学長会議」で検索すると、いくつか参加報告を見つけることができる。ご関心のある方はぜひ。