友だちのような関係性を利用するビジネス

 ネットワークビジネスマルチ商法ねずみ講)についての報道を見かけた。以前、それに関連するようなメモを書いたのでここに転載する。

 いまどきのSNSには「めっちゃすごい人」がたくさんいる。お金をたくさん儲けていそうだったり、人脈が豊富そうだったりするようである。毎週末には高級マンションでの最上階でパーティーを開催しているような煌びやかな世界を、インターネットを介してうっかり覗こうとしてしまうこともあるかもしれない。
 私はかつて「めっちゃすごい人」を紹介されたことが2回ある。まず、大学生の頃に、中学時代の同級生A君によってである。A君は浪人して関西の私大に入っていた。「きんちゃん、『めっちゃすごい人』を紹介したいねんけど、神戸にけーへん?『めっちゃすごい』先輩やねん、いま3回生、一生ついていくわ、ほんま憧れるでー」と言うのである。何がそれほどすごいのかを尋ねるのだが、いまひとつ要領を得ない。なお、きんちゃんとは二宮姓のあだ名であり、ちゃんが取れてきんとだけ呼ばれることもある。かつての長寿の有名人か。さて、そんなことのために神戸には行けないと答えると、「ほんなら、携帯電話買わへん?『めっちゃすごい』人から買うと8,000円で済むで。店の値段の半分や。ピッチよりトク。な、『めっちゃすごいやろ』」と。おそらく「めっちゃすごい人」は何かしらの学生団体の主催者で、儲かることなら、面白いことなら、人脈が増えることなら何でも行動する大学生だったのだろう。私が携帯電話を買えば、「めっちゃすごい人」とA君に幾らかのキックバックが生じるはずである。その後、A君は学生生活を「めっちゃすごい人」のために、すなわち学生団体の活動に費やしたらしい。この当時の学生団体―単に、学生が構成メンバーである団体という意味ではない―に関する事情は関西と関東では違いがあるような印象もある。
 次の「めっちゃすごい人」は、会社勤めをしていたとき同じくA君から紹介された。A君は留年を経て卒業後に地元で働いていた。近況を聞いてみると、「ワシ、就職活動せんかってん。3回生のとき、『めっちゃすごい人』に出会って、その人が社長やっとう会社でバイト始めて、そのままそこで働いてんねん」と語る。私は共通の知人を通じて、A君が就職活動をしていないというのは虚偽であること、どの企業からも内定を得るには至らなかったことを知っていた。そのことを伏せたままでいると、再度お誘いを受けた。「きんちゃん、その『めっちゃすごい人』に会ってほしいねん、こんなチャンス他にはないで。これから絶対伸びる会社や、一生ついていくわ」と熱心に言う。何の商売をしているのか、正社員として働いているのか、そもそもなぜ私が会う必要があるのかを問うても、やはり以前と同様にまったく要領を得ない。わかったことは、「めっちゃすごい人」1人目と2人目は別人であること、2人目の「めっちゃすごい人」を含めて5人ほどで「いろいなモノ」(原文ママ)という何かを販売していることだけだった。何がすごいのか、いまだに謎である。どこか危うさを感じたので「めっちゃすごい人」2人目にも会わなかった。
 A君はその数年後、名の知れた企業へ転職してセールスを担当した。さらにその数年後、大手企業の代理店へ転職したとのことである。そして、その最初の転職の頃から「めっちゃすごい人」を紹介されなくなったのである。
 「めっちゃすごい人」になりたい人生であった。今からでも「めっちゃすごい人」になってみたい。どうすれば「めっちゃすごい人」になれるだろうか。

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