心をあやつる男たち (文春文庫)

心をあやつる男たち (文春文庫)

感受性訓練の末路がこのようなものだっとは、ほとんど知らなかった。確かに、ある時期の週刊誌の中吊り広告には、こうしたトレーニングの危険性を訴えていたものもあったような気がする。ただし、私が物心ついた頃には、もはや感受性訓練は低調で、TQCセミナーのような成果のわかりやすいものの方が流行だった印象がある。
禅との共通点が多いというのは、その通りなのだろう。感受性訓練の理論や実践を読んでいると、不謹慎かもしれないがどうしても京極夏彦のとある小説を思い出してしまう。森田療法と禅との関係と、とても似た関係があるようなのだ。かつての横山定雄の東京大学教育学部博士論文「『人間関係(実験室)訓練』の教育社会学的研究」について、その評価とお弟子さんの業績を追跡する必要があるかもしれない*1
最近の企業研修、再びこうしたメンタル面を強調する傾向がないだろうか。私の所属していた学部ゼミ(ジェンダーとか社会政策とかのゼミ、教育系ではない)の先輩で、研修トレーナーをしている方のウェブサイトを見ると、「感情に着目したトレーニング」のようなことが書かれている。大丈夫なのだろうか、などと考えていると、当時のその学部ゼミにもまた感受性訓練のような機能があったかもしれないと自省してみる。テキストから離れて議論が進んでしまうとき、力関係(先輩/後輩、体育会/非体育会、首都圏中高一貫校出身/その他出身、教員と仲が良い/そうでもない…)を背景として、ゼミテンの人格に対する過度な攻撃があったかもしれない。まさしく、逃げ場のない「文化的孤島」においてである。さすがに「チェンジ体験」はなかっただろうが、学部ゼミの経験、特に人間関係の経験を大事なものとして懐かしむ卒業生は少なくない。何だか、気分が悪くなってきてしまう。

*1:書籍化された博論を図書館で借りてきた。「小平分館蔵書」印に加えて、「東京工業大学工学部附属工業高等学校」と「工業教員養成所」の印が押されている。不思議な来歴だ。