ハノイでの調査を終えて

 先日、ハノイを訪問して現地の皆さまからお話しを伺いました。ありがとうございました。

 さて、帰路の夕方のことである。キンマー通りから、鉄道の駅であるハノイ駅へ路線バスで向かうことにした。ハノイ駅で空港行きの格安86番バスに乗り継ぐためである。ハノイの路線バスによる移動の情報はGoogleマップのルート検索で得られるようである。しかし、短期滞在のためにWi-Fiの準備をせず、事前に調べておいた古いバス路線図を見て作成した手製のメモを頼りにすることにしていた。32番のバスに乗り、15分ほどで無事ハノイ駅へ到着した。深夜に出発する航空便のチェックイン時間までには余裕がある。そこで、旧市街の方へ歩いてみて1時間ほどで戻ることにした。
 外国人観光客でにぎわう旧市街を散策して、ハノイ駅へ戻ろうとした。しかし、どれだけ歩いても記憶にある駅周辺の街並みに出会わない。後日地図で確認したところ、タンロン城跡やレーニン公園の辺りで迷子になっていたようである。Wi-Fiを持っていなかったために、自分の位置をスマホで確認できないのである。困ってしまったものの、偶然、公園横のバス停で32番のバスに乗れることを発見した。どちらの向きに進むのかはわからなかったけれども、そのバスに飛び乗ってみた。すると数分で見覚えのあるキンマー通りに無事戻ることができた。なお、線路の見える写真は旧市街からの帰り道で方向感覚を決定的に失った場所の一つである。
 手製メモに従って再び駅に向かう路線バスに乗った。今度は25番のバスである。32番とは違って、キンマー通り沿いの小さなバスタミナールを経由した。少し不安になりながらもバスに乗り続ける。しかし、想定よりも早くバスが右折してしまう。これも後日知ったことだが、ハノイ駅には「A駅」と「B駅」があり、私が想定していた空港行きのバスが出発するのは「A駅」である。右折したバスは「A駅」を通らず、「B駅」もよりもさらに西側を走っていた。後になってわかったことではあるが、ハノイ都市鉄道の駅の辺りである。その時点では、いずれ「A駅」の方へ向かうのだろうと思っていた。しかし、乗車してから30~40分ほど、日が沈みゆく方角から考えるとバスはひたすら「A駅」からも「B駅」からも離れて南下しているようである。
 日が暮れてとても不安になってきた。自分がどこにいるのか再びさっぱりわからないのである。ハノイ駅に通じるのであろう線路がかろうじて見えるために、市域の南側にいることだけは想像できた。財布の中の残金は約80,000ドン(≒500円)しかなく、タクシーにも乗ることができない。空港行きのバスに乗るために45,000ドンを残しておかなければならないのであった。そもそもハノイではとても便利であるというタクシーアプリさえ持っていない。街中のATMでキャッシングをしたうえで、どこかのホテルに駆け込んで空港までのタクシーを手配することまで想定せざるをえなくなっていた。バスの中で誰に向けるわけでもなく英語で「キンマーへ行きたい」と言ってみた。すると、複数の乗客が反応してそれぞれのスマホでバスでの移動方法の検索を始めてくれた。ちょうどバスが郊外の大きなバスターミナル(乗客の高校生らしき方は「コーチターミナル」と言っていて、後に調べたところおそらくザップバットという有名なバスターミナルである)に入ったところ、10名ほどの乗客全員が「今すぐここで降りて、目の前の32番バスに乗れ」と教えてくれた。皆さんとても親切であった。特に、高校生らしき方が懸命にアドバイスをしてくれた。何度も何度もお礼を言って、その日3回目の32番に乗ることになった。
 32番バスにそのまま乗り続けていればキンマーに戻ることは可能である。しかし、往路は「A駅」の目の前を、復路は「A駅」の付近を通ることを手製メモに控えていたので、カンを働かせてある場所で隣の乗客に英語で駅に行く方法を尋ねる。案の定、次のバス停で降りて直進して歩くといいという助言をもらう。なんと再び、バスの乗客全員15名ほどが応援してくれる雰囲気になった。再度、大声で皆さんに対して感謝を伝えた。一緒にバスを降りることになったお年寄りからは「ありがとう」と日本語で伝えられた。いや、感謝を言うべきなのは私のはずであった。そうして無事に「A駅」に辿り着いて、86番バスで空港へ向かうこちになった。道に迷い始めてから2時間ちょっと、バス代42円+48円+42円=132円の冒険だった。バス車内の乗客の皆さんに対してほんとうに感謝している。
 こういうことにならないように、短い出張であってもWi-Fi、グーグルマップ、観光ガイドブックは準備しておきたい。