国立大学 法人運営費交付金「成果を中心とする実績状況に基づく配分」

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国立大学法人では、令和元年度(2019年度)から運営費交付金の一部が「成果を中心とする実績状況に基づく配分」とされることになった。これは「各国立大学等が自ら選択した枠組みに応じた重点支援評価に基づく配分」とは異なって、成果に関する客観的な【共通指標】によって3つのグループ―地域貢献等、専門分野、世界・卓越等―内で序列化を行ったうえで、その結果を交付金の傾斜的な配分へ反映するものである。
令和元年度(2019年度)の【共通指標】は次のようなものであった。大学の組織運営、研究成果に関する項目であり一応の納得はできていた。

〇会計マネジメント改革状況
〇教員一人当たり外部資金獲得実績
ⅰ)共同研究等の研究教育資金
ⅱ)寄附金等の経営資金
〇若手研究者比率
〇運営費交付金等コスト当たり TOP10%論文数(試行)←世界・卓越等のみ
〇人事給与・施設マネジメント改革状況

そして、令和2年度(2020年度)の【共通指標】には驚かされることになった。

○卒業・修了者の就職・進学等の状況
大学の教育による成果として、卒業・修了者がどれだけ就職、あるいは進学しているかについて、卒業・修了者数当たりの就職・進学等の状況に基づき、学系ごとに評価
○博士号授与の状況
特に博士課程における学修成果として、学位をどれだけ授与しているかについて、博士課程入学定員当たりの学位授与数の状況に基づき、学系ごとに評価
○カリキュラム編成上の工夫の状況
各大学における教育課程において、教育内容の充実に資する取組や学修成果の質保証に資する取組がどれだけ行われているかについて、カリキュラム編成上の工夫の状況に基づき、学系ごとに評価

○若手研究者比率
各機関の研究環境の向上・改善の観点から、若手研究者がどれだけ在籍しているかについて、常勤教員数当たりの若手研究者数の状況に基づき、学系ごとに評価
○運営費交付金等コスト当たり TOP10%論文数
各機関が質の高い研究成果をどれだけ算出しているかについて、運営費交付金など基盤的経費投入コスト当たりの被引用数 TOP10%の論文の件数に基づき、評価←世界・卓越等のみ
○常勤教員当たり研究業績数
各機関の研究活動の結果として、どれだけの成果を創出しているかについて、常勤教員当たりの研究業績数に基づき、学系ごとに評価
○常勤教員当たり科研費受入件数・受入額
各機関の研究活動や研究環境整備の成果として、科研費をどれだけ獲得しているかについて、常勤教員当たりの科研費獲得額及び件数の状況に基づき、学系ごとに評価
○常勤教員当たり受託・共同研究等受入額
各機関がどれだけ研究教育資金を獲得しているかについて、常勤教員当たりの受託・共同研究、受託事業受入額の状況に基づき、重点支援の枠組ごとに、学系ごとの評価の要素を加味して評価
○人事給与マネジメント改革状況
各機関における人事給与マネジメント改革の進捗状況について、人事計画の策定状況、全学統一的な業績評価の実施状況、外部資金の活用状況を各法人へ調査し、その回答に基づき、重点支援の枠組ごとに評価
ダイバーシティ環境醸成の状況
各機関におけるダイバーシティ環境がどれだけ醸成されているかについて、外国人教員・女性教員の比率や留学生・社会人学生・障害学生の比率、障害者雇用比率に基づき、重点支援の枠組ごとに評価
○会計マネジメント改革状況
各機関における会計マネジメント改革の進捗状況について、学内のマネジメント、学外への情報開示、産学連携推進に向けた環境整備の取組を各法人へ調査し、その回答に基づき、重点支援の枠組ごとに評価
○寄附金等の経営資金獲得実績
各機関がどれだけ経営資金を獲得しているかについて、教員一人当たりの寄附金及び雑収入の獲得実績に基づき、重点支援の枠組ごとに評価
○施設マネジメント改革状況
各機関における施設マネジメント改革の進捗状況について、施設の有効活用、適切な維持管理、サスティナブル・キャンパスの形成に向けた取組状況を各法人へ調査し、その回答に基づき、重点支援の枠組ごとに評価

上記太字・下線の内容に関して各大学の大学教育センター担当者は背筋の凍る思いをしただろう。教育改革の推進状況が直接的に運営費交付金の増額・減額につながることになったうえに、大学間で競争することになったのである。絶対評価ではなく相対評価なので、必ずどこかの大学は勝利を収めて運営費交付金が増額され、必ずどこかの大学は敗北して減額される。各大学の状況については文部科学省高等教育局国立大学法人支援課調査における「カリキュラム編成上の工夫の状況」における設問と回答から把握されている。この年は次のような枠組みで点数化が行われた。

指標の算定方法
①学系別の点数を算出
大学ごとに、学系別に以下の観点を確認し、学系内の学部・研究科において当てはまっている場合に加点【配点:各1点】
✓学生の資質を多面的・総合的に評価し伸長するための取組の実施(アドミッション・ポリシーへの明示や初年次教育における特色ある取組など)
✓ナンバリングの実施
✓履修系統図(カリキュラムマップ、カリキュラムチャート)の活用
✓カリキュラム編成に当たり、企業等と連携する仕組みを設けている
✓能動的学修(アクティブ・ラーニング)を取り入れている
✓GPA に応じた履修上限単位数の設定
シラバスに「準備学修に必要な学修時間の目安」を設定
✓学生の学修成果の把握を行っている
②大学別の平均点を算出
各大学の学系ごとの点数を入学定員で加重平均することにより得られた数値を指標とする

しかし、実のところ令和2年度(2020年度)についてはすでに取り組み済みの内容も多く、評価項目に対してどうにか対応できていた。そして、令和3年度(2021年度)から、この【共通指標】のうち「カリキュラム編成上の工夫の状況」が過酷なものとなっていく。【共通指標】全体は次に示す通りである。

○〔教育〕卒業・修了者の就職・進学等の状況(45 億円)
大学の教育による成果として、卒業・修了者がどれだけ就職あるいは進学しているかについて、卒業・修了者数当たりの就職・進学等の状況に基づき、学系ごとに評価
○〔教育〕博士号授与の状況(45 億円)
特に博士課程における学修成果として、学位をどれだけ授与しているかについて、博士課程入学定員当たりの学位授与数の状況に基づき、学系ごとに評価
○〔教育〕カリキュラム編成上の工夫の状況(30 億円)
各大学における教育課程において、教育内容の充実に資する取組や学修成果の質保証に資する取組がどれだけ行われているかについて、カリキュラム編成上の工夫の状況に基づき、学系ごとに評価
○〔研究・経営〕若手研究者比率(150 億円)
各機関の研究環境の向上・改善の観点から、若手研究者がどれだけ在籍しているかについて、常勤教員数当たりの若手研究者数の状況に基づき、学系ごとに評価
○〔研究〕運営費交付金等コスト当たり TOP10%論文数(115 億円)
各機関が質の高い研究成果をどれだけ算出しているかについて、運営費交付金など基盤的経費投入コスト当たりの被引用数 TOP10%の論文の件数に基づき、評価←世界・卓越等のみ
○〔研究〕常勤教員当たり研究業績数(95 億円)
各機関の研究活動の結果として、どれだけの成果を創出しているかについて、常勤教員当たりの研究業績数に基づき、学系ごとに評価
○〔研究〕常勤教員当たり科研費獲得額・件数(95 億円)
各機関の研究活動や研究環境整備の成果として、科研費をどれだけ獲得しているかについて、常勤教員当たりの科研費獲得額及び件数の状況に基づき、学系ごとに評価
○〔経営・研究〕常勤教員当たり受託・共同研究等受入額(95 億円)
各機関がどれだけ研究教育資金を獲得しているかについて、常勤教員当たりの受託・共同研究、受託事業受入額の状況に基づき、重点支援の枠組ごとに、学系ごとの評価の要素を加味して評価
○〔経営〕人事給与マネジメント改革状況(70 億円)
各機関における人事給与マネジメント改革の進捗状況について、人事計画の策定状況、全学統一的な業績評価の実施状況、外部資金の活用状況を各法人へ調査し、その回答に基づき、重点支援の枠組ごとに評価
○〔経営〕ダイバーシティ環境醸成の状況(15 億円)
各機関におけるダイバーシティ環境がどれだけ醸成されているかについて、外国人教員・女性教員の比率や留学生・社会人学生・障害学生の比率、障害者雇用比率に基づき、重点支援の枠組ごとに評価
○〔経営〕会計マネジメント改革状況(70 億円)
各機関における会計マネジメント改革の進捗状況について、学内のマネジメント、学外への情報開示、産学連携推進に向けた環境整備の取組を各法人へ調査し、その回答に基づき、重点支援の枠組ごとに評価
○〔経営〕寄附金等の経営資金獲得実績(150 億円)
各機関がどれだけ経営資金を獲得しているかについて、教員一人当たりの寄附金及び雑収入の獲得実績に基づき、重点支援の枠組ごとに評価
○〔経営〕施設マネジメント改革状況(25 億円)
各機関における施設マネジメント改革の進捗状況について、施設の有効活用、適切な維持管理、サスティナブル・キャンパスの形成に向けた取組状況を各法人へ調査し、その回答に基づき、重点支援の枠組ごとに評価

「カリキュラム編成上の工夫の状況」を評価する枠組みはこのようなものである。

①学系別の点数を算出
大学ごとに、学系別に以下の観点を確認し、学系内の学部・研究科において当てはまっている場合に加点 【配点:各1点】
✓入学から卒業に至るまでの学生の資質・能力の変化と授業科目の履修履歴といった教学データを蓄積し、これらを活用した組織的な教育改善の取組を実施している
✓教育課程の編成に係る検討の段階から、組織的に学外のステークホルダーが参画する仕組みを設けている
✓GPA に応じた履修上限単位数の設定している
シラバスに「準備学修に必要な学修時間の目安」を設定している
✓学修成果を可視化し、就職活動時や卒業時に企業等に対して分かりやすく提示する取組を実施している
✓卒業生に対する追跡調査や雇用主等に対する卒業生の評価に関する調査を行い、その結果を教育改善につなげる組織的な取組を実施している
②大学別の平均点を算出
各大学の学系ごとの点数を入学定員で加重平均することにより得られた数値を指標とする

令和4年度(2022年度)については、手元の情報ではさらに細かい「カリキュラム編成上の工夫」が求められている(本日時点では文部科学省ウェブサイト等で公開されていないようなので、それへの言及は差し控える)。「成果を中心とする実績状況に基づく配分」は、すなわち文部科学省が推進する教育上の工夫を導入していない場合には運営費交付金を減額するペナルティが課されるという意味である。あらかじめ評価項目が示されるわけではなく、それゆえに準備を進めておくこともできないので、事後になって各大学の大学教育センターが慌てることになる。この3年間の傾向から推測すると、私立大学向けの各種時限付き教育改革予算で導入が進められた改革内容が参考対象となっている。大学経営の「実践」としてはそれらの予算の動向を確認しておくのと同時に、大学を対象とした研究や大文字の「大学論」としては教育の内容に踏み込む可能性のある評価項目に対して気を付けておく必要もある。