西日本某所への出張の帰途、徒然をまぎらわすために読む。
ギデンズの論文を読みたいためであったのだが、全体の感想は残念なものである。というのも、ギデンズは、労働市場の柔軟性を成功した国々の政策的枠組みの本質的な部分であるという。しかし、それは、例えば、「規制緩和の環境の下でハイテク経済はシリコンバレーを見習わなければらないという命題は誤りであり、フィンランドのような成功した欧州モデルも存在する」というカステルの議論が引用されるように、欧州各国のそれぞれに大きく異なるが、なお大きな意味を持つ労働に関するあらゆる規制、積極的労働政策の存在を、改めてわざわざ議論する必要のないこととして前提に置いているためである。
こうした前提と「柔軟性」議論の組み合わせのあり方こそに、議論の焦点を合わせるべきである。しかし、あるべき規制の議論を等閑視して、他の論者は「柔軟な」働き方をする各層に応じて「モチベーション」を高めるための社内の方策を論じるだけである。これでは、ギデンズの意図することが伝わらず、単に労働市場をさらに柔軟にしたうえで「モチベーション」に配慮すれば良い、といった誤読を誘うことにはなってしまう。