「授業仕分け」という企画が始まっているようです。どうやらリアル熟議の参加者の一部も関心を持っているようですが、「クソ授業(ママ)」の淘汰がリアル熟議の成果の一つだとすると、あまりにも物悲しいです。
さて、いくつかの謬見を正しておきたいと思います。

  • 「授業と学習に関するアンケート」は非公開である。

→ 公開されています。結果は、附属図書館、東学習室、教務課窓口で閲覧できます。

  • 「一緒にクソ授業(ママ)を淘汰しましょうw」という呼びかけに見られるように、つまらない授業は淘汰するべきだ。

→ 淘汰される教員は、この状況を歓迎するかもしれません。教員は、研究においては「負担」という言葉をあまり使いませんが、教育においてはすぐに「負担」という言葉を口にする傾向があります。「負担」がなくなるのですから、淘汰は歓迎されます。非「クソ授業(ママ)」もあえて淘汰されることを狙って、「クソ授業(ママ)」に転換するでしょう。そのうち、大学からすべての授業がなくなってしまうというディストピアが到来します。
→ もちろんそれは冗談であるとしても、大学の授業はインタラクティブであるべきです。問題があるのならば、学生はその場で教員、あるいは、すぐに大学に改善を要求しなければなりません。確かに教員の権威は恐ろしいかもしれません。しかし、1人ではなくて集団で立ち向かえば、また、各研究科に仲介を依頼すれば、その種の問題の克服は可能です。理由が正当であれば、教員は問題を改善するでしょう。15回の講義が終わってから、「クソ授業(ママ)」の責任を教員だけが負うという理解は適切だとは思いません。このことは、リアル熟議の重要な論点の一つでもあったはずです。だからこそ、現行の「授業と学習に関するアンケート」は悪しきポピュリズムに陥らないための配慮が行われています。
→ 「クソ授業(ママ)」を挙げることは、美人投票*1になる可能性が高いです。「クソ授業(ママ)」を選ぶのではなく、みんなが「クソ授業(ママ)」だと思うであろう授業を選ぶのではないでしょうか。誰もが納得できるものを挙げて、溜飲を下げるだけの残念な営み*2になるでしょう。

  • 「クソ授業(ママ)」を淘汰すれば、授業の質は上がるはずだ。

→ おそらく上がりません。非「クソ授業(ママ)」に履修者が集中することになりますので、従来であれば質の高かった授業に悪影響が及びます。古い社会学の言葉で言えば、逆機能です。

  • 大学がやっているアンケートは茶番だ。

→ 教員は毎学期、個別の結果を渡されています。その結果に基いて反省をして、次の学期に活かしています。茶番という評価は適切ではありません。たとえば、私は「授業は易しめだが、それに比べて学生に対する要求がやや高い」という意見を頂きまして、それはもっともであると反省しました。本年度は授業内容と課題のハードルの水準の見直しを行っています。

  • 大学間の授業比較をするべきだ。

→ 大学によって、あまりにも文化が異なるので難しいです。たとえば、一橋は一方で確かに学生の一般の授業に対するコミットメントは低いのですが、他方でゼミに対するコミットメントは極めて高いです。これはほんの一例にすぎません。それぞれの大学はさまざまな独自の文化を持っていて、そのことは学生の学習に対する態度に大きな影響を与えています。ちなみに、伝統的に一橋は他大に比べて大学に対する「満足度」が高くなる傾向があります。この理由が一般の授業の素晴らしさによるものであれば、教員はとても嬉しく思います。しかし、残念ながらその理由は別にあるということは、学生がよく実感しているはずです。

  • MITの授業やサンデルの授業を見習うべきだ。

→ 同じく、大学によってあまりにも文化が異なるので難しいです。一橋においては、学生も、また教員も(!)、毎回の膨大な宿題やTAセッションに耐えられるとは思いません。サークル、アルバイト、就活の時間はなくなります(既述の「満足度」は下がります)が、それでも良いでしょうか。すべての授業をサンデル式にしたいという希望が学生の総意であるならば、大教センター教員として構想を開始しますがいかがでしょうか。それが実現した場合、もう「クソ授業(ママ)」とは言われなくなるでしょうか。

→ 良かれ悪しかれ、この10年で随分と変わりました。現行の「授業と学習に関するアンケート」のどこに「お役所気質」を見出しているのか、まったくわかりません。むしろ「お役所気質」とは対極のような仕事ぶりの職員が数多くいるはずです。



しばらく「授業仕分け」の情勢を見て、機会があればまたコメントします。また、下品な言葉を羅列せざるを得なかったこと、どうかご容赦下さい。GPAといい、リアル熟議といい、「クソ授業(ママ)」淘汰といい、何だか同業の皆さま宛てに笑いのネタを提供してばかりのブログになりつつあります。

*1:経済学部以外の学生は、この意味を調べてみましょう。

*2:この「残念な」の使い方、おそらく某関西の芸人さんによるものなのでしょうが、微妙なニュアンスが面白いですね。