「丁寧な暮らし」という広告宣伝の背景にあったもの

 著者の太田先生よりお送り頂いた。感謝申し上げます。
 学生の頃に勉強したヨーロッパの貧困調査の歴史、社会改良運動、生活協同組合運動などを思い出しながら一気読みした。大きな問いは次のようなものである。

 ところで、読者のみなさんは読みはじめてすぐに気づくと思うが、本書が描く19世紀末から20世紀前半の女性をめぐる状況は、必ずしもこの国だけにみられるものではない。欧米諸国の多くには類似の出来事や運動が存在したし、日本においてもある程度はあった。とりわけ当時の女性の社会的位置づけについては、日本とスウェーデンの間に大きな違いがあったわけではない。
 目を向けたいのはむしろ、ジェンダー平等の先進国とみなされているスウェーデンは、実際にはそれほど特異な道を辿ってきたわけではないということだ。そのうえで、違いはどこにあったのかを探りたいのである。
21-22頁

 紹介されるデータによると、スウェーデンにおける既婚女性に占める専業主婦の割合は1920年頃の約90%から、1975年頃の約20%までほぼ単調に低下している。通説としては1960年代以降の労働力不足に応じて多くの女性が家庭の外で働くようになり、それに合わせて税制や社会サービスなどが改善されてジェンダー平等が推進したというものである。しかしながら、著者はこの解釈は単純であるという。「専業主婦の時代」の始まりと終わりにおける、女性たち自身のアイデンティティの特徴や生活変容の実態を検討しなければならないとして、様々な資料をもとに女性運動・主婦運動やそれに関連する政策の歴史を紐解いていく。そこには、たとえば北欧の民主的なイメージとは異なるような、戦時下の「国策」が関わっていることもある。
 本書の射程外のことでないものねだりであるのだが、農業(小作農)から軽・重工業(被雇用)への時代における労働、家庭、消費生活の関係について勉強になった一方で、その後のサービス産業化の時代におけるそれらの関係とジェンダー平等の特徴について知りたくなってしまった。実態やその実現可能性はともかくとして専業主婦志向が必ずしも弱いわけではない日本と比較して、何がどのように違っていたのかをわかりたい。現代の学生と一緒に読むことで理解が捗るのかもしれない。