労働法・社会保障法とキャリア教育

http://ci.nii.ac.jp/naid/110009604943
新谷康浩、2013、「キャリア教育における「非就労」への「まなざし」:キャリアテキストの分析を手がかりにして」『横浜国立大学教育人間科学部紀要. I, 教育科学』15

以前から気になっていたこの論文(そして、一連のキャリア教育研究)に触発されて、キャリア教育のテキストにおいて労働や社会保障に関する法がどのように扱われているのかを確認してみた。


学生のためのキャリアデザイン入門<第3版>

学生のためのキャリアデザイン入門<第3版>

渡辺峻・伊藤健市(編著)、2015、『学生のためのキャリアデザイン入門〈第3版〉:生き方・働き方の設計と就活準備』中央経済社

近年の個人重視の人材マネジメントの普及は、個々人が会社と交渉する状況を推し進め、個人別の紛争を増加させているので、女性差別、権利侵害、不当労働行為、セクハラ、パワハラなどには、1人でも抵抗し闘えるような「政治的能力」が不可欠です。そのためには日本国憲法、労働三法(労働組合法、労働基準法労働関係調整法)、男女雇用機会均等法などの基本的な知識を身につけ、法的政治的権利を自覚的に行使し、自分の政治哲学に従って行動することが要求されます(巻末の「仕事をする上で知っておくべき法律」を参照)。
24頁

本文ではこれ以外に労働法に関する説明はない。巻末に5ページにわたって、憲法労働基準法男女雇用機会均等法、育児介護休業法などが紹介されている。ただし、量が少ないうえに、説明も物足りないかもしれない。法の名称が羅列されているけれども、そこからさらに理解を深めようとするのは難しいのではないだろうか。


理論と実践で自己決定力を伸ばす キャリアデザイン講座 第2版

理論と実践で自己決定力を伸ばす キャリアデザイン講座 第2版

大宮登(監修)、2014、『理論と実践で自己決定力を伸ばす:キャリアデザイン講座第2版』日経BP

特に説明はない。本文中で「ジョブ・カード制度」の説明があるのが特徴的だ。


荒井明(著)・玄田有史(監修)、2015、『キャリア基礎講座テキスト:自分のキャリアは自分で創る』日経BP

特に説明はない。玄田有史なので一つの章を使って「希望」についての説明がある。その中のコラム「立ち止まってしまったとき」で、10行のみではあるものの、各都道府県の労働局や労働基準監督署などの相談機関が紹介されている。


大学生のためのキャリアガイドブックVer.2

大学生のためのキャリアガイドブックVer.2

寿山泰二・宮城まり子・三川俊樹・宇佐見義尚・長尾博暢(著)、2016、『大学生のためのキャリアガイドブックVer.2』北大路書房

また、あなたが働くうえで、当然の権利とその身の安全を守るのに必要な労働の法律や、それらの法律が適正に施行されているかを判断してくれる「労働基準監督署」や、あなたの職探しや職能開発を支援してくれる「ハローワーク」、各種の「職業訓練校」などの存在や仕組みも知っておく必要があります。特に、「労働基準法」など、不当な労働条件からあなた自身を守ってくれる法律、条令などもしっかり学んでおく必要があります。それらは、あなたが大学に在籍していればこそ、容易に学ぶことができます。
28-29頁

これ以外に労働法に関する説明はない。大学における労働法の講義で学ぶことを前提としているようである。また、キャリアカウンセリングのケースが紹介されていて勉強になる。じぶん一人で何でも済ませてしまうのではなく、他者に相談できるということも大事なのだろう。


キャリアデザイン

キャリアデザイン

水原道子(編著)、2016、『キャリアデザイン:社会人に向けての基礎と実践』樹村房

第4章 キャリアデザインと法律(58-73頁)
1. 就職と法律
(1) 正規雇用社員と非正規雇用社員
(2) 労働法から見る正社員と非正社員の違い
(3) 社会保障から見る正社員と非正社員の違い
2. 出産・育児と法律
(1) 出産
(2) 育児
(3) 看護休暇
(4) 児童手当
3. 法律知識をキャリアデザインに活かす

私が望んでいたのはこの内容であった。法律を苦手とする学生であっても読みやすい。特に、社会保険についての説明が充実していて嬉しい。しかも、保険料の労使折半という概念からの問題提起(正社員が支払う保険料は半分で、残りの半分は企業負担であるから得をするようだけれども、そもそも正規・非正規の区別が正当化できるのかという問いまで踏み込んでいる)や、コラム「130万円のカベ」からの問題提起(それが自立を妨げているのではないか)など、学習をその先へ進める仕掛けが施されている。
時間ができれば近著を読んで続編を書く予定である。これらのテキストはキャリアについての「自己責任」を強調するものが多いのだけれども、その問題まで考えられるようなものがあるかどうか。