忘れられた日本人 (岩波文庫)

忘れられた日本人 (岩波文庫)

休日を利用して、「土佐源氏」の地域における「ばくろう」(馬喰)について調べている。教育史の専門家は聞いたことがある職業だろう。ディレッタントという批判を受けるかもしれないが、私にとってはどうしても理解したいテーマなのである。
しかし、予想していたことだったのだが、取り寄せた郷土史にはほとんど記述がない。「土佐源氏」の地域では、そもそも戦前期から畜産がそれほど盛んではなかった。牛を飼う主な目的は農耕と駄屋肥であった。農村恐慌時には、子牛1頭と茄子苗1把を換えたとの記録もあるらしい。さらに戦後に至っては労役用としての牛であっても、その価値は低くなっていく。だからこそ、農協のような経営組織ではなく、「ばくろう」のような個人仲買人が必要だったのであろうが、その存在はまさしく「忘れられた」ものになりつつある。今年の秋、私が「ばくろう」をかろうじて覚えている人物に聞いた限りでは、戦後に至っても村の内外において社会的地位の問題が残っていたという。「忘れられた」ものにしないために、折に触れて言及していきたい。