大学教育学会30周年記念誌編集委員会、2010、『大学教育 研究と改革の30年―大学教育学会の視点から』東信堂


理系基礎教育についての小笠原論文は面白い。大綱化の目的は果たされぬまま、旧教養教員の所属問題ばかりが問題となってしまうという指摘は、文系にも示唆を与えるものである。と思いつつ、「文系基礎教育」という言い方は一般的には存在しないので(Ciniiを見ると、文系学生に対して基礎的な理科や数学を身に付けさせることを「文系基礎教育」と言っているようだ)、また、文系における筆者のような立場の研究者も思い付かないので(あえて言えば高等教育について発言する稀有な教育学者が該当するだろうが、少し視点が異なってしまう)、文系に関するそうした概念は存在し得ないのかといった(「学士力」には回収されないで)、よくある、つまらない、とても論文にはならない議論に辿り着いてしまう。
(A)大綱化以降、人文系は不当に貶められている。本来であれば、あらゆる学問の中でもっとも尊敬されなければならない分野である。しかし、履修する学生は少なく、学生の「質」を憂えるばかりだ。(B)大綱化以降、学生の将来に直接的に役立つ専門科目を充実してきた。人文系などは、関心がある学生が履修すれば良いだけだ。専門科目を履修する学生の「質」は極めて高い。
学内で何かを行おうとすると、大抵の場合、この(A)と(B)のせめぎあいの影響を被る。様々な資源を費やした挙句、最終的には(B)の意向が優先する傾向がある。(A)も(B)も大綱化の狙いとは異なる意図があるという点は共通している。この(A)と(B)の軸に加えて、もう一つ軸がありそうなのだが、ひとまずは控えておこう。