出席を「とってもらう」ということ

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 「オンライン授業で困っていること」(複数回答)は、1年生は「コンピューターの操作に慣れていない」(62・0%)が最多となり「勉強のペースがつかみにくい」(54・3%)が続いた。2~4年生は「課題が多い」(56・6%)が最も多くなった。
 「良かったと思うこと」を複数回答で尋ねると「自分のペースで勉強できる」(1年生71・7%、2~4年生63・0%)、「自宅で学習ができる」(69・6%、69・0%)が上位に。一方、「教材がわかりやすい」(5・1%、3・6%)、「先生に質問がしやすい」(10・5%、6・9%)は、あまり選ばれなかった。
 オンライン授業で「不安に感じていること」(自由記述)は「出席がきちんとできているのか」「学費を全額払うことに不満だ」などの声が多かった。また、特に1年生を中心に「対面での授業についていけるだろうか」「友達関係がうまくいくか不安だ」などと通常の授業が再開した場合への不安を明かす記述も。「オンライン授業で実施した部分を、対面での授業で復習してほしい」といった声もあったという。
 一方、オンライン授業で楽しめていることには「先生の話を何度も聞き直すことができ、メモを取る時間がある」などがあった。

 オンライン授業に対して不安を感じる学生がいることがよくわかる記事である。他方で、2つのことが気になった。
 第1に、授業外時間学習についてである。記事では、2~4年生では「課題が多い」ことが困っていることの最多回答であった。この困っていることが、大学としてはあらかじめ定められた目標に到達するために必要な「困りごと」であるのか、あるいは、その到達には不要な、過大な、見込み違いの「困りごと」なのかがわからないのである。学習の過程においては重要な「困りごと」に直面することはあり、しかし、場合によってはその「困りごと」は無用であるかもしれない。今回の「課題が多い」について、その「困りごと」の内容をもう少しわかりたいのである。なお、私が今期担当している主として1年生向けの講義で実施した「履修しているすべての講義について、5月最終週の1週間で予習・復習に使った時間の合計は?」というアンケートの回答結果は、10時間未満約12%、10時間以上20時間未満約40%、20時間以上30時間未満約30%、30時間以上40時間未満約12%、40時間以上50時間未満約3%、50時間以上約3%であった。月曜日から金曜日まで講義(授業)を2コマ(計3時間)または3コマ(計4時間30分)聞き、それ以外に、平均して週20時間、月曜日から土曜日までの6日間で毎日3時間強の授業時間外学習をしているということになる。確かに、昨年度末までの各大学による学生の生活時間を問うアンケートの結果に比べれば授業時間外学習の時間が多くなっているようである。「単位制度の実質化」とは平仄の合う結果であるともいえるのと同時に、それは通学時間、アルバイト時間の影響を考慮しなくてもよいからこその評価であるという反論もできるだろう。
 第2に、「出席がきちんとできているのか」という不安についてである。なるほど確かに1年生は、教員に出席を「とってもらう」という姿勢がすでに入学前に身についているだろう。また、開講時数の3分の2以上を出席した学生を成績評価の対象とすることを明記する大学、明記しないけれども慣行としている大学もある(実は明記もせず、慣行にもしていない大学―文科省以外の省庁や業界団体などによる指示を受ける必要のない大学―もあり、その背景には1単位45時間という大学設置基準を遵守するからこそあたかも1単位45時間の規定を損なうような規則はおかしいという強弁もあるともいえるだろうか)。そうした1年生が身につけている習慣や、大学による規則・慣行によって、出席を「とってもらう」のは当然という理解になっているかもしれない。最近では、高等教育段階の教育費負担軽減新制度の機関要件(大学がその対象となるための要件)の一つに「厳格な成績管理の実施・公表」が含まれていることもあって、大学による出席管理が強化されているという事情もある。他方、個々の大学教員からすると、出席を「とってもらう」仕事を任されることは、学生に対して知識・技術を伝達したり、教養を深めることや論理的思考力を養うことを後押ししたりするという講義(授業)という営みのねらいからは外れているものである。学生からすると、学部学科・名前を呼ばれる点呼や、学生証をカードリーダーに通して「ピ」という電信音を聞くことによって、出席を「とってもらう」という安心感、単位取得のための最低限の条件をクリアするという安心感を得られるかもしれない。しかし、残念なことだけれども、その安心感は知識・技能を身につけること、教養・論理的思考力を養うこととはあまり関係のないものである。出席するだけで最終的な成績評価の点数につながる「出席点」を導入している講義(授業)も激減した。とはいえ、安心感を得たいという気持ちを否定することもできない。そこで、「出席がきちんとできているのか」については、教員に出席を「とってもらう」というのでなくて、学生がじぶんじしんで出席をしたことの「ログを取る」ようにするのはどうだろうか。ログとはコンピュータ用語で、パソコンの稼働状況などの履歴を記録することである。コンピューターではない学生の「ログ」とは何か?そう、ノートとかメモとかあるよね(ノートとかメモとかは手書きである必要はない)。その日付、講義(授業)内容、疑問点、感想、そのときの感情(?)、考察などが書かれた「ログ」が残っていれば出席を「とってもらう」ことに代替できるはずであり、また、安心感を他人任せにはしない自立した人生がほんの少し開けるような印象もある(大袈裟か)。