- 作者: ブライアン・カプラン,月谷真紀
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2019/07/17
- メディア: 単行本
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そして、職業教育に関して興味深い見解を示している。職業教育は「利己的なリターン」(=学習者にとってのリターン)、「社会的なリターン」ともに有益であるとする。たとえシグナリングであっても、高校職業科出身者は中退者よりも高く評価されるし(つまり、その際のシグナルはマイナスや悪いのなく、弱いのである)、そうでなくても、「どんな授業も学生を何らかの仕事に備えさせる」(p.320)―大工、自動車整備士、配管工など―からであるという。同時に、価値財としての教育という観点での「教育は魂を涵養する」という価値観に対しては、それは望ましい理想であると主張しつつも、実際の効果はなかなか見えないともいう。文学や音楽、シティズンシップなどの価値の伝達に関して教育は無力であるとして、教養教育に対して懐疑的な見方を呈示している。
こうした検討から導き出される「賢い学生のための実践的指針」(p.222)として、
- あなたがよほどの劣等生でない(または定職に就くことを望まない)限り、高校には行け。
- あなたが優秀な学生であるか特殊なケースに限り、大学に行け。
- よほどの条件がそろわない限り、修士号は取るな。
が挙げられている。大学へは優秀でなければ進学するな、と!
さて、この筆者の主張に対して、どのような反論が可能だろうか。そして、どうして日本においても、人的資本ではなくシグナリングがトランジションの解釈枠組みとして強く好まれてきたのだろうか。考えてみるととてもおもしろい。