各大学で開講されている「高等教育論」(1)

学部生が高等教育論を履修できる大学はどれくらいあるだろうか。また、そこで伝達されている高等教育論の知識とはどのようなものだろうか。以前にも調べて掲載してみたことがあるのだけれども、再度探索してみよう。
いくつかの大学のシラバス(2018年度版)で「高等教育」を講義名称に含んでいるものを探して、その講義内容を抜粋してみた(通信制、演習等科目、大学院科目を除く)。「大学」や「大学教育」を講義名称にするものは、初年次科目や自校史などが含まれることがあるためや、第三段階教育を射程に入れていないために対象外にした。そのことにより、東北大学同志社大学などで開講されている「高等教育」に相当する講義は挙げていない。以下に並べる大学の順序について特に意味はない。


1.東京大学教養学部(前期課程)
「高等教育論入門」小方直幸
第1回 大学の制度・歴史(1)、第2回 大学の制度・歴史(2)、第3回 入試と選抜、第4回 授業料と奨学金、第5回 学生生活と学習行動、第6回 就職と大学での学び、第7回 学長と大学改革


2.東京大学教育学部
「高等教育概論」橋本鉱市
1~4回:高等教育の機能と構造の概要、わが国の大学制度の変容と政策、政策形成・決定・実施のプロセス、5~8回:米国を中心とした各国の大学制度の国際比較(ランキング・モデル論・類型論)、大学制度の多様性、9~12回:高等教育の選抜機能(入試、高大接続)、配分機能(学歴主義、労働市場)、13回:最終試験

3.東京大学教育学部
「高等教育の社会学」橋本鉱市
第1回:イントロダクションー講義内容の説明、第2回:専門職(教育)の定義・歴史、第3回:高等教育セクターにおける養成制度ー専門職性・専門性に関する議論、第4回:国家による統制ー国家試験などによる質保証、第5回:専門職集団の戦略ー報酬の確保と職域の拡大、第6回:専門職個人における発達ーキャリア形成、プロフェッショナリズム、第7~8回:専門(学部)教育の改編と変容ー事例研究、第9~10回:専門職大学院の成立と評価ー事例研究、第11~12回:専門職大学の制度化ー事例研究、第13回:総括-今後の行方

4.日本大学文理学部
「高等教育論」間篠剛留
1はじめに―「大学とは何か」を考える―、2大学をめぐる現代的な諸課題、3大学での学び、4高等教育と社会とのつながり、5大学教授職の使命、6知と学問の関係、7大学と学生、8高等教育の質保証、9アメリカの高等教育、10中世大学と近代大学、11日本の近代化と大学、12戦前の高等教育と戦後の民主化、13大学の大衆化と大学紛争、14大学改革の時代へ、15おわりに―改めて「大学とは何か」を考える―

5.青山学院大学教育人間科学学部
「高等教育論A」杉谷祐美子
1オリエンテーション、2ワークショップ「大学について考える」、3大学をめぐる環境変化、4大学入試制度の変遷、5高校-大学間の接続関係と入学者選抜、6大学改革とそのモデル、7教育内容・教育方法の改革、8大学生の実態と学生支援、9学士課程教育の質保証と評価、10キャリア形成と大学で身につけるべき力、11大学から職業への移行、12高等教育政策の課題(1)高等教育のグランドデザイン、13高等教育政策の課題(2)新たな高等教育機関の制度化、14高等教育政策の課題(3)高大接続システム改革、15まとめ

6.青山学院大学教育人間科学学部
「高等教育論B」杉谷祐美子
1オリエンテーション、2大学の誕生と発展、3近代アメリカの大学、4近代ドイツの大学、5現代ドイツの大学、6現代アメリカの大学、7現代イギリスの大学、8ワークショップ「日本の大学について考える」、9日本の大学の成立過程、10大学の設置形態-国立と私立の比較-、11高等教育財政、12大学の組織と経営、13大学設置認可制度、14質保証と大学評価制度、15まとめ

7.鳥取大学全学共通科目
「高等教育論(旧Ⅱ・B)」永松利文
1ガイダンス:日本社会及び高等教育の概念的理解、2日本の近代化と若年層、3近代国家の成立、4国際関係の変動と産業の発展、5二つの大戦と日本社会及び高等教育(1)、6二つの大戦と日本社会及び高等教育(2)、7敗戦による日本社会の変容:戦後民主主義、8 事例研究、9占領政策から戦後改革へ、10日米安保と経済成長、11 高度経済成長の終焉、12大学の民主化、13事例研究、14事例研究、15事例研究、16最終レビュー

8.千葉大学国際教養学部
「日本の高等教育政策」前田早苗
第1回 現代の高等教育課題の概観、第2回 戦後の高等教育制度の変遷(1)大学設置基準大綱化以前、第3回 戦後の高等教育制度の変遷(2)大学設置基準大綱化以降、第4回 高等教育の国際比較(1)欧米、第5回 高等教育の国際比較(2)東アジア、第6回 大学改革政策の現在、第7回 大学評価の意義と課題、第8回 まとめと試験

9.広島大学教育学部
「高等教育概論」藤村正司、吉田香奈
第1回 オリエンテーション、第2回 高等教育とは、第3回 明治維新から帝國大学令、第4回 専門学校令、第5回 大学令、第6回 占領期:大学設置基準とアクレディテーション、第7回 新制大学一元化、第8回 大学紛争と46答申、第9回 私立大学助成法と専修学校設置基準、第10回 臨時行政調査会と奨学金制度、第11回 大学院拡充政策、第12回 大学設置基準の大綱化、第13回 国立大学の法人化、第14回 認証評価制度と専門職大学院、第15回 高等教育の機能別分化政策と大学入試制度の変遷

10.岐阜大学教養科目
「教育論(岐阜大学の歴史と高等教育論)」廣内大輔
1.大学の起源、2.帝国大学の誕生、3.戦前の高等教育機関①、4.戦前の高等教育機関②、5.私立大学の発展、6.学問の自由と大学の自治、7.レポートの書き方講座①、8.戦争と大学、9.戦後大学改革①、10.戦後大学改革②、11.教養教育の登場、12.医師と看護師の学校史、13.レポートの書き方講座②、14.短期高等教育の拡充、15.大学紛争

11.横浜国立大学教育人間科学部
聴覚障害者の高等教育」須藤正彦
1.導入(聴覚とその障害)、2.聴覚障害とコミュニケーション、3.聴覚障害児童・生徒の学習Ⅰ、4.聴覚障害児童・生徒の学習Ⅱ、5.難聴学級、ろう学校の中等教育、6.聴覚障害学生の高等教育進学と就職、7.筑波技術大学設立の経緯とその教育Ⅰ、8.筑波技術大学設立の経緯とその教育Ⅱ、9.海外の聴覚障害者高等教育とその歴史Ⅰ、10.海外の聴覚障害者高等教育とその歴史Ⅱ、11.米国における聴覚障害者高等教育Ⅰ、12.米国における聴覚障害者高等教育Ⅱ、13.聴覚障害児・学生のためのバリアフリー、14.高等教育機関のネットワーク、15.講義のまとめ、質疑・応答、16.試験

12.群馬大学教養教育科目
「女性と高等教育を考える」小林陽子
1.オリエンテーション、2~3.文明開化と女子就学の開始、4~7.女子高等教育の芽生え、8.中間のレポート作成とディスカッション、9~10.女子高等教育の成果と課題、11~13.レポート作成、14~16.レポートの発表および討議

13.北海道大学全学共通科目
社会の認識「日本と世界の高等教育を考える-歴史と比較と現代の課題-」姉崎洋一
大きく5つの柱で進める。(各3回)1,高等教育の概念、思想・理念、制度の概説、2,高等教育の歴史的理解、3,多様な高等教育の展開事例、4,教育改革と大学の変容、5,世界の高等教育についてグループで調べて報告する。

14.【参考】2015年度立教大学全学共通教育カリキュラム
「高等教育の歴史的展開/新座」二宮祐(自分のものも掲載するべきだった)
1.序論、2.学校の接続、3.旧制大学旧制高等学校、大学予科、4.ドイツと米国の高等教育、5. 日本の戦後改革(1945年~1950年代)、6. 理工系の拡充政策(1950年代~1960年代)、7.特論1:1950年代の高校生を見てみよう、8. 特論2:レポートの書き方、9. 私立文科系の拡大、学生運動(1960年代)、10.四六答申、私学助成、進学者抑制政策(1970年代)、11. 臨教審、消費社会における高等教育(1980年代)、12.大学設置基準の大綱化/ユニバーサル段階の高等教育(1990年代)、13. 特論3:大学から職業生活への移行、14.まとめ

さて、ある傾向が見えてくるような印象を持った。学士課程教育における「高等教育論」の特徴と問題点は何だろうか。(2)へ続く(たぶん)。そして、とても調べきれないので「高等教育論」シラバス情報のご提供を!(ところで、冒頭で述べた条件は実のところあまり良いものではない。その輪郭を描くためには、初年次科目や自校史などを含めた「大学論」と重なるものとしての高等教育論を探すべきであった)