企業が実施する採用テストの開発をテーマとした論文が採択された。先日、掲載決定通知が届いたところである。発行はまもなくのようだ。


二宮祐、2015、「総合検査SPIの開発経緯―1960年代から1990年代までを対象として」『大学教育研究ジャーナル』(徳島大学)12


論文は心理検査のうち〈質問紙法〉に焦点を絞っている。採用テストの中では〈質問紙法〉が用いられることが一般的だからである。また、〈作業検査法〉として現在でも利用されることがある内田クレペリン検査についても、ほんの少しだけ言及している。国鉄で長らく利用されてきた検査であって、おそらくは現在でも運輸業などで使われているだろう。私は大学4年生で就職活動をした際、印刷会社の2次選考として受検した経験がある。採用テストとして精神検査が適切かどうかはわからないものの、少なくとも第1に15分×2回足し算を続けられる力があることを見極められる、第2に過去に蓄積されたデータ―曲線類型(定型曲線/非定型曲線)と作業量の特徴―との比較できることから、その活用はかろうじて理解できる。
一方、採用テストとして納得できないのが〈投影法〉である。再びの余談であるが、私は大学入学時に新入生の身体検査と合わせてバウム・テストを受けた。当時、この結果はそれを担当する医師が指導する後期ゼミナールにおいて、学部3、4年生が新入生全員分についてマニュアルを見ながら診断していたそうである。10人に1人の新入生が何らかの指摘を受けたとか受けないとか・・・。それはともかく、冒頭の論文に関連することでは、1970年代にSCT(文章完成法:Sentence Completion Test)が採用テストとして利用されていたことが一部で問題視されていた。言わば文章の自由な穴埋め問題で「科学的」な選抜ができるわけがない、むしろ、それは恣意的な基準を設けた選抜に利用されているにすぎないという批判があったのである。たとえば、「私は○○○○○が好きだ」という文章を完成させなさいという刺激で、「パチンコ」と回答した受検者がそれを理由として選考から外されたという。その基準はもはや「科学的」なものではなく、単なる趣味、嗜好である。なお、それ以降、管見の限りでは〈投影法〉が採用テストに用いられるという機会は極めて少ないはずであった。

この業界・企業でこの「採用テスト」が使われている 2015年度版

この業界・企業でこの「採用テスト」が使われている 2015年度版

ところが、この対策本によれば、DSI(営業・販売職適性テスト)というテストにおいて、視覚刺激として絵が提示されて、それをどのように解釈するかが問われるという*1

絵を見て、あなたの好む話を選択しなさい。


(二宮注:ここに、絵が描かれている。4人の白衣を着た医師らしき人物が寝ている患者のような人物の周りを取り囲んでいる。1人が患者の身体にメスを入れようとしている)


A:恋人が手術を受けている。少年は手術の成功に大きな不安を感じている。
B:先輩医師達の手術助手をしている若者が、先輩の手術の手法に疑問を持っている。
C:姉に応急手当をした医師に感銘を受け、少年は医師を目指して勉強する。
同書19頁

いったいこれで何がわかるのだろうか。〈投影法〉はコストが高いので、その趣旨に合うように〈質問紙法〉にしているだけである。しかし、おそらくは〈投影法〉としての理論的検討をふまえていない。また、ネットで検索してみると、TAL(Total Assessment Library)というテストは、受検者にネット上で図形のアイコンを自由に配置させることで、その人物特性を明らかにできるという。これも同じく、いったい何がわかるというのだろうか。かつてのSCTと同じ問題を指摘できるのではないだろうか。
内田クレペリン検査のように膨大なデータの蓄積があって、かつ、心理学者による数十年間の検討の積み重ねが公開されているのであれば、採用テストとしての利用は必ずしも完全に否定されるとまではいえないだろう。しかし、これらのテストについてはまったくデータの開示、理論的根拠の明記がされていない。かなり危うさを覚えるのである。この問題は総合検査SPIについても一部あてはまる。


ところで、シューカツ生は適性検査.jp(日本の人事部)を読んでおこう。


明日の(2)に続く。私はこれから最近はまっているCABの法則性問題の練習をするのである。中学受験の算数で見かけることのあるパズル的な問題のようだ。

*1:リンク先が表示されない場合は「DSI ダイヤモンド社」で検索しよう。