秋季入学について勉強する。
ゼミの配布資料のような要約をつくってみる。



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第11章 学年制と秋季入学を考える(pp.156-172)
第1節 はじめに
・度重なる秋季入学の政策課題化
教育刷新審議会、中教審、臨教審、教育改革国民会議教育再生会議
大学改革が課題となるたびに提起されてきた
・今回の提起の特徴
東京大学という一大学が自校の改革課題としてなされた
そのうえで、他大学へもよびかける
・本章の目的
今回の提起の意義を明らかにすること
今後の議論にとって欠く事ことができない諸点について論じること
実行可能な解決策を提示すること


第2節 秋季入学移行政策の経緯
・教育刷新審議会
高校以下の教育段階における支障を確認
・1976年学校教育法施行規則改正
「特別な必要があり、かつ、教育上支障がないとき」には「学年途中でも、学期の区分に従い、学生を入学させ及び卒業させることができる」ことになった
新構想大学(筑波)、ミッション系大学(上智ICU、聖心女子など)が秋季入学を推進
・臨教審
第四次答申「将来、我が国の学校教育を秋学期入学制に移行すべく、関連する諸条件の整備に努めるべき」
・1999年施行規則改正
前年の大学審議会答申を受けて
「特別の必要」がなくても、学年途中で学期ごとに入学・卒業が可能になった
・教育改革国民会議
「国際化を推進し、高校卒業後の学生に社会体験などの時間を与える観点から、大学の九月入学を積極的に推進する」
しかし、その後の調査において、秋季入学導入の目的が錯綜している―「国際化」なのか、青年の奉仕活動・社会体験への参加を促すことなのか―ことが問題視される
教育再生会議
「帰国生徒や海外からの留学生の養成に応えるとともに、日本版ギャップイヤーなどの導入による若者の多様な体験の機会を充実させる観点から、大学・大学院における九月入学を大幅に促進する」
→これを受けて2007年施行規則改正
  「大学の学年の始期及び終期は、学長が定める」


第3節 東大の提起
・2012年3月「入学時期の在り方に関する懇談会」最終報告
グローバル・キャンパスの実現のために
 → 国際標準となっている秋入学に移行する必要がある
   そのことから生まれるギャップタームを活用した海外体験等は、タフな東大生の育成に役立つ


第4節 秋季入学が国際標準といえるか
東大最終報告書は秋季入学を国際標準であると主張する
 ↑
細かい誤り:南半球の9・10月は春である、インドネシアの学年始期は9月ではなく7月である
大きな誤り:初中等教育と高等教育の学年暦が揃っていることが「国際標準」である
もし、日本が、初中等教育の学年暦をそのままに、大学のみの秋季入学を強行したとすると、それこそ、「国際標準」からずれた「特異な状態」になる


第5節 秋季入学は「キリスト教圏」の風土に根差す
・なぜ欧米の学年が秋に始まるのか
イギリスの事例
 秋に始まる最初の学期はミカエルマス期(Michaelmas term)と呼ばれる
 ミカエルマスは伝統的な暦における四半期日(quarter days)の一つ
 天使長ミカエルを祝う祭日(9月29日)
 かつてはミカエルマスまでに収穫を終えなければならないとされた
  生産季節の終わり、新しい農業サイクルの開始
  新しい使用人が雇われる、土地の交換が行われる、負債が支払われる
  「それでミカエルマスは、治安判事を選挙する時期となり、法的及び大学の開始期間となったのである」(Historic UK, 2012)
・春に物事が始動することを体化している日本がこうした文化がを受容できるか


Historic UK (2012) ‘Michaelmas’, (http://www.historic-uk.com/CultureUK/michaelmas/)


第6節 九月入学でなくても国際的な豪州や韓国の大学
東大最終報告書は秋季入学でないことが国際交流の最大の支障である主張する
 ↑
必ずしもそうではないはずだ
ソウル国立大学春季入学であるにもかかわらず、秋季入学のイェール大学と同等の、東京大学の三倍の留学生比率を達成している
オーストラリアの大学は、一般的に1月入学であるにもかかわらず、留学生の受け入れが世界最高水準にあると知られている
オーストラリアへの留学者の第1位のシンガポールは8月入学、第2位の香港は9月入学、第3位のマレーシアは1月入学、第4位の中国は9月入学、第5位のインドネシアは7月入学。
秋季入学にしなくても留学生が集まり、また秋季入学にしたからといて留学生が殺到するというものでもない


第7節 ギャップタームは若者をタフにするか
・日本の高校卒業生にはギャップを課し、海外からのそれにはシームレスな授業機会を与えるという提案には違和感を覚える
・ギャップタームで有み出される人力に社会奉仕や地域起こしへの貢献を期待する向きもある
 ↑
補習教育を含む初年次の特別訓練が必須といわれる学生にそれを課すことは現実ではない
その人力は春から夏の半年に過剰に発生して、秋には完全に消滅する―そんな一時期限りの人力を社会がうまく使いこなせるはずがない
モデルとされるイギリスのギャップイヤーは、約1年半を社会経験に投入する
しかも、その志望者は全合格者の7.6%にすぎない


第8章 現実的な改革は
・国際標準は7割程度でしかない秋季入学ではない
100%に近い国で大学と初中等教育機関の学年に大きなずれがないことである
その国の風土にあった、学年学期制を展開するべきだ
・暦年の新年あけ(たとえば、3月)に春学期を開始して夏前に終え、秋学期を9月早々に始めて12月までに終えるころが合理的であろう
 → 7月一杯までエアコンの中で授業を強いること(多くの私大)、夏休みを隔てて9月に「夏学期」の試験を実施すること(東大)、これらを避けられる


第9節 おわりに
(略)
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秋季入学構想は現時点でもなお「ゴミ缶」にみえてしまう。アウトバウンドを増やしたい、インバンウンドを増やしたい、ギャップタームを実現したい(社会奉仕をさせたい、海外経験を積ませたい…)、教養教育をてこ入れしたい(教養教育を拡充したい、教養教育を縮小したい…)、何かしらの体裁を取り繕いたい…。複数の意図が絡まって主張されるので困ってしまうのである。
ところで、3月始期にすると決算期間とズレが生じる。授業料や各種助成金に関する事務手続きは面倒だろう。まだ見えていない資金繰りなどの問題はないだろうか。