3月上旬、教養ゼミナールの履修者有志と上海外国語大学(上外)日本文化経済学院を訪問して合同ゼミナールを実施した。一橋大学「平成24年度『海外大学等との学生交流(短期)支援事業【試行】』」に採択されたために、また、往復ともに茨城空港発着のLCCを利用したために、学生一人あたりの負担額を4泊5日で約12,000円(食費、観光費を除く)に抑えることができた。なお、写真は上外の松江キャンパスに隣接している大学院生のための寮である。一軒家を利用した豪華な寮を案内して頂いた。日程は以下のとおりである。


1日目
移動:東京駅→茨城空港→上海浦東国際空港→ホテル(青浦区)


2日目
午前 合同ゼミナール第1部
 自己紹介、日本文化紹介(1)茶道 (2)能
午後 合同ゼミナール第2部:会読テーマ「若者の自立」
 (1) 米村千代、2010、「親との同居と自立意識―親子関係の‘良好さ’と葛藤」岩上真珠編著『〈若者と親〉の社会学―未婚期の自立を考える』青弓社
 (2) 岩上真珠、2010、「ハイ・モダニティ時代の若者の自立―リスク社会のなかで」岩上真珠編著『〈若者と親〉の社会学―未婚期の自立を考える』青弓社

 (3) 沖田敏恵、2004、「ソーシャル・ネットワークと移行」『移行の危機にある若者の実像―無業・フリーターの若者へのインタビュー調査(中間報告)』(労働政策研究報告書No.6)労働政策研究・研修機構(再録:2009、本田由紀・筒井美紀編著『リーディングス日本の教育と社会―第19巻 仕事と若者』日本図書センター
 (4) 本田由紀、2010、「若者にとって働くことはいかなる意味をもっているのか―『能力発揮』という呪縛」小谷敏ほか編著『若者の現在―労働』日本図書センター 
夜 合同ゼミナール懇親会 


3日目
午前 合同ゼミナール第3部:会読テーマ「若者の文化」
 (5) 化濱、2012、『コスプレでつながる中国と日本―越境するサブカルチャー日本図書センター、序章〜第2章
コスプレでつながる中国と日本―越境するサブカルチャー (学術叢書)

コスプレでつながる中国と日本―越境するサブカルチャー (学術叢書)

 (6) 濱野智史、2012、「デジタルネイティブ世代の情報行動・コミュニケーション」小谷敏ほか編著『若者の現在―文化』日本図書センター
 (7) 馬場伸彦、2012、「『かわいい』と女子写真―感覚による世界の新しい捉え方」馬場伸彦・池田大臣編著『「女子」の時代!』青弓社
 (8) 阿部真大・坂倉昇平、2011、「企業社会 vs Jポップの30年―阿部真大インタビュー」阿部真大編著『居場所の社会学―生きづらさを超えて』日本経済新聞出版社 
午後 キャンパス見学
 復旦大学邯鄲キャンパス・上海財経大学国定路キャンパス
夜 如水会上海支部交流会


4日目
高鉄を利用して蘇州訪問→ホテル(浦東新区)*1


5日目
移動:上海浦東国際空港→茨城空港→東京駅


いちばん嬉しかったのは中国と日本の学生が遠慮することなく交流できたことである。昼間は文献について議論を深めることを通じて、夜は食事を共にしながら人生や趣味などを語らうことを通じて、お互いの考えの違いや重なりについて理解が進んだはずである。特に、会読のテーマであった自立観やユース・カルチャーの特徴について想像以上に重なった部分が多いことを実感したのではなかろうか。休憩のついでにいわゆる「トロッコ問題」や「臓器くじ問題」を問うてみたところ、ほとんど見解が一致したのはとても面白かった。両国関係の悪化が危惧されているなか、民間レベルの交流を粘り強く継続していかなければならないのである。「初音ミク」だらけのジャパンウィークの再開を強く期待したい。
3日目の夜には田子坊の近くの飲食店で如水会上海支部の皆さまにお会いした。中国のビジネス、政治経済の状況について、迫真的なお話しを伺うことができた―ビジネスについては絶対にここでは書けない壮絶な内容であった。学生よりも私の方が強い関心のもとにあれこれと質問をしてしまったのである。ビジネス以外にも話しは盛り上がった。日本のマスコミは中国の大気汚染ばかりを、中国のマスコミは日本の放射能汚染ばかりを誇張して取り上げていて、いたずらに両国関係を悪化させているというお話しは頷けるものであった。また、実際にビジネスに携わっている方は「グローバル人材」などという言葉をまったく使わないこと、学生時代には「すぐに役に立つ」職業能力ではなく「幅広い教養」を身につけるべきだと仰ることはほんとうに興味深い論点であって、私としては研究上の示唆を頂いたことになった。
今回の訪問では、虹橋空港のさらに西、青浦区のホテルに滞在した。タクシーの窓からは街道沿いにたくさんのゲーテッドコミュニティがあるのを確認した。郊外のために高層の高級マンションではなく、2階建ての高級一軒家が建てられるのであろうか。夜遅く、道に迷ったタクシーの運転手さんがゲーテッドコミュニティのまさしくゲートで警備を行っている守衛さんに道を尋ねていたのが印象的であった。




上海外国語大学日本文化経済学院の許慈惠院長、竇心浩副教授、本科・碩士課程の皆さま、また、如水会上海支部の皆さまには大変お世話になりました。皆さまのご協力がなければこの企画は実現できませんでした。厚く御礼申し上げます。

*1:虹橋火車、蘇州間の運賃が往復で異なっていた。理由がわからない。