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「東京」に出る若者たち―仕事・社会関係・地域間格差

「東京」に出る若者たち―仕事・社会関係・地域間格差

経済学に依拠した労働移動の分析であるため、私は必ずしも十分に理解できたとはいえない―初学者にもわかるよう平易な説明が行われているはずなので、理解できない理由の大半は私の勉強不足にある。そのうえで、気に留めておきたい点は以下のような論点。

進学時の移動の有無を決定するのには、父親が高所得を期待される専門・技術系・管理的職業を持っていることと正の相関関係を持っており、世帯の経済力が移動と教育を通して子どもに引き継がれているメカニズムが明らかになった。「恵まれた」環境で育った若者は東京に移動し、高い教育を受け、高所得が期待できる職業に就き、「恵まれていない」環境で育った若者は、地方で十分な人的投資を行えず地方で低所得の職業に就く確率が高い。このようなメカニズムにより、地方においては若者の二極化と世代間格差の固定化が進行していると思われる。このメカニズムを断ち切らない限り、格差の固定化を防ぐことは難しいだろう。
以上の結果から、格差の固定化を断ち切るため、いかに教育政策が重要であるかが分かる。地方においても高い水準の教育サービスが提供できれば、高いコストを払って都市に移動しなくても、人的資本を蓄積することができる。そうすれば、移動コスト負担能力の有無が直接所得に結びつくメカニズムを断ち切ることができる。教育における地域間の格差を無くすことが、格差の拡がりを防ぐ重要な政策となりうることが本章の結果からいえる。
86頁

教育社会学の通説とも変わらない結果である。高等教育機関の新設抑制、規模縮小、廃止を声高に主張する方に読んでほしい。とりわけ忍び寄る地方大学の規模縮小政策への反論を準備しておかなければならない必要性を再認識した。

以上のように、東北地方のローカル・トラックは、東京圏あるいは宮城県への移動を後押しし、移動先での適応を助ける。その裏面として重視しなければならないのは、それら多数派の移動先を離れた地域、たとえば近畿に移動するとき、東北出身者が孤立する確率が相対的に高いということである。このとき、東北出身者は、東京圏出身者と似た状況に置かれる。少数派として移動すれば、東北出身者といえども移動先で孤立する確率が高くなる。
164頁

高校から大学への移行という問題を考えるとき、私はこれまで地域間移動という観点をあまり重視していなかったことに気付かされた。確かに、大学生活に「適応」―「適応」という言葉はあまり好きではないが、とりあえず―できるかどうかは筆者のいうローカル・トラックが生む縁というのは重要である。故郷から離れた場所の大学に進学して無理をしてでも新しい友だちを作ろうとする学生、それを冷ややかに見つめる現地の学生、そんな構図をずっと見てきたような気がするのである。既存の友人関係を移動先でも維持できるというのはとても心強い。



追記:以上を書いた後で、この書籍に関する批判と読み取れるような文章を発見した。社会学(特にSSM調査)や地理学への目配りが足りないことを問題視しているようである。しかし、当該研究は経済学に依拠する部分が多いので、別のアプローチの視点が足りないからだめという批判はあまり意味がないだろう。