「水面下ではいろいろ動いているのよ」と言うと、あることがらについて特権的に情報を持っている、事情通なのだ、と自らの虚栄心を満足させつつ他人を見下すことができる。嫌味で都合のよい表現である。そのわりに、その情報が何であるのか隠したままにしている。ほんとうに情報を持っているのだろうか、あやしく思えるのだ。


http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002hc65.html


1.有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合(※1)は、労働者の申込みにより、無期労働契約(※2)に転換させる仕組みを導入する。
(※1) 原則として、6か月以上の空白期間(クーリング期間)があるときは、前の契約期間を通算しない。
(※2) 別段の定めがない限り、従前と同一の労働条件。


2.「雇止め法理」の法定化
雇止め法理(判例法理)(※)を制定法化する。
(※)有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、または有期労働契約の期間満了後の雇用継続につき、合理的期待が認められる場合には、雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、有期労働契約が更新(締結)されたとみなす。


3.期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮して、不合理と認められるものであってはならないものとする。

(施行期日:2については公布日(平成24年8月10日)。1、3については公布の日から起算して1年以内の政令で定める日。)


そんな表現を思い出したのは、労働契約法の改正についての話題が出たときである。使用者寄りの労働法の専門家が「企業は水面下で対応を検討している」と言っているのを耳にした。法改正前に駆け込みで雇止めを進めていく、とのこと。私は法学など専門外なのでよくわからないが、法の趣旨に即した行動といえるだろうか。
身近な大学教員市場のことに焦点を絞ってみる。全国の国立大学の大学教育センターは、多くの有期労働契約の教員を抱えている*1。3年、または、5年契約の高等教育の専門家がFD、大学評価、初年次教育などの業務に従事している。センターは旧制高等学校、旧制予科、新制教養部の性格―一段格下扱いの部局―を引き継いでいることがあるうえに、大抵の場合、有期労働契約の「若手」で運営されている。こうした教員もまた、早急に雇止めにされることになるのか、あるいは、無期労働契約に転換するのか、どうなるのだろう。「水面下ではいろいろ動いている」大学改革にも影響を及ぼすことになるのだろうか。
「水面下ではいろいろ動いている」ことがあまりに多すぎて困惑してしまう。

*1:もちろん、全国の国公私の大学が有期労働契約の職員によって支えられていることも見逃せない。企業と同じ「水面下」の対応が図られてしまうのか・・・。