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羽田貴史、2012、「私の東日本大震災日誌―京都市・東京都・仙台市南相馬市東広島市」『東北大学高等教育開発推進センター紀要』7


先日、ある会議の休憩時間において羽田先生から紀要論文の抜刷を頂いた。すでに、この紀要は東北大学高等教育開発推進センターのウェブサイトで公開されている。
http://www3.he.tohoku.ac.jp/?page_id=700
高等教育「研究」の姿勢でその会議に出席していたため、私的な記録が綴られた文章を頂いて戸惑ってしまった。中性脂肪率や韓国料理屋のママの話しには困ってしまう。しかしながら、よく読み直してみると貴重な記録であることがわかる。ホットメールの利用(とそれに対する否定的な反応)、大学セミナーハウスやオリンピックセンターの利用、迅速なマニュアル作成、パニックに陥った学生への対応など、学ぶべきことばかりである。阪神淡路、東日本のそれぞれから目をそらしてきた私に反省を迫るものである。毎年1月17日の深夜にその体験を下書きしているのであるが、ブログに掲載する勇気がないのだ。
特に惹きつけられたのは次の2点である。第1に、参考として掲載された「学生への対応マニュアル(2011.3.16、第2版)」の冒頭が「ケアも必要」というタイトルであることだ。その後に、「身分の確認」や「現在の状況を確認」などが続くのであるが、何よりもまず重要なことは「ケア」なのだろう。仙台を離れていた学生はとても心細かったはずだ。このマニュアルを読むだけで涙が止まらない。私が学生だった阪神淡路のとき、こんな配慮があればどれだけ気が休まったことだっただろうか*1

1. ケアも必要
(1) ねぎらいと不安への対応(まず声かけ、お茶、お菓子などで休ませる)
経済的・体力的・心理的不安を抱えていることへの配慮「大変だったね」「それは不安だったでしょう」「随分疲れたね」「この先どうなるかわからないのはつらいね」
(2) 心理的状況の把握(表情などから不安が特に高そうな学生には必要)
学生個人が持っているコミュニケーションネットワークの把握、睡眠状況、食欲状況の把握「連絡を取り合っている友達はいますか?」「ちゃんと眠れていますか?」「食欲はありますか?」
(3) ニーズの把握
学生の思いを引き出す「今、一番何が不安ですか?」「今、一番やってほしいことは何ですか?」
(4) 学生支援の幅の明確化(分室への過剰な期待への失望感から守る)
分室で対応できること、できないことを明確に呈示する「ここでできることは、今のところ、○日までの宿泊の紹介だけです」「△△については、分室で対応するのは無理です…」学生の自助努力を引き出す「自身で何とかできそうなことはありますか?」
(5) 今が非日常事態であることとポジティブな未来、東北大学の連帯感
「この状態がいつまでもずっと続くわけじゃないからね、大丈夫」「みんなも仙台で頑張っている」「大学もちゃんと考えてくれている」

第2に、当時の行政官や研究者の行動をどのように理解するかという論点提起についてである。「これらの人々の多くは、いわゆる有力大学で高等教育を受け、優秀な成績で政・官・学界で有力な地位についたはずであるが、なぜこのような行動しか取れないのか、こうしか価値観や行動様式の形成に、大学教育は関係があるのか無関係なのか?(224頁)」この問いはあまりにも大きすぎて答えられるものではない。久しく行われていないであろうエリート研究の開始が、この問いを解くことになるだろうか。

*1:出身地の震災、そんなものは自分でどうにかしなさいという冷たい対応をされたことを思い出す。