東京大学の9月入学構想に関連して一言だけ。
- 作者: 塚原修一
- 出版社/メーカー: 玉川大学出版部
- 発売日: 2008/02
- メディア: 単行本
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学生を消費者とみるこのような議論は、現実の複雑性を適切にとらえているとはいいがたい。高等教育の市場化がすすむとともに、高等教育の大衆化ないしマス化が過去数十年にわたってすすんできた。(略)新しい学生層のニーズのなかには、就業による時間的制約のなかでの学習や、言語と文化に対する理解の浸透など、この新しい学生層が少数派であった時代の対処療法的な対応では処理しきれない課題も含まれている。37頁
一橋の秋季入学については、私の所属するセンターによる研究を参考にしてほしい。少なくとも私が聞き取りを担当した中国については、まず、インバウンドに関して現時点ですでに存在する半年間の「ギャップ」を巧みに活用した留学ルートが存在することがあまり知られていない。たとえば、東京や地方都市で半年間(または1年間以上)、同郷の友人と一緒に暮らして、同郷の先生から日本語、日本の習慣を教えてもらえることはとても心強い。また、アウトバウンドに関して、半年間の時間の使い道は、休学して日本に残る場合は留学費用を捻出するためのアルバイト、自動車免許の取得、留学先で必要となる語学の学習(その方法は多様)であって、先に渡航する場合は現地の教育機関に通っての語学の準備的な学習ということであった。とりわけ、極めて多かったのがアルバイトである。半年間集中してのアルバイト体験の悲喜こもごもについて、たくさんのお話しを伺った。東京大学の学生の多くには必要のないことなのかもしれないが、アルバイトをしないで済むというのは例外的なことである。もちろん、依然として階層差はあるにせよ、もはや留学は裕福な家庭の出身者の特権ではない。東京大学における入試時期を据え置いて「ギャップ」を確保するという案はアウトバウンドへの配慮という点では納得できる。ボランティア参加者の増加よりは、インターンシップ斡旋業者の利益の増加が見込まれるにしてもである。とはいえ、「グローバリゼーションとはアメリカナイゼーションや『帝国主義化』を意味するのだ」などというつまらない陰謀論を唱えなくても、特にインバウンドに関して「ギャップ」がなくなることによって、不利益を被る学生もいるはずなのだ。
- 作者: 楊逸(ヤンイー)
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2011/10/07
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