ある研究会のお手伝いのために、日本のMBAのカリキュラムについて考えている。ただカリキュラムを横に並べてもつまらないので、言わば「隠れたカリキュラム」に言及したく準備を進めているところである。私はかつて、あるMBAの担当教員に許可を頂いて授業に潜ったことがあって、その時に感じた「ここは私の居場所ではない」という違和感が、「隠れたカリキュラム」の存在によるものであるという印象を持っている。
それはそれで研究を進めるとして、「序」の部分で簡単にMBAを定義しておこうとして、いきなり躓いてしまった。MBAという言葉は学位名称にすぎないのだが、そもそも日本の大学院で、MBA、あるいは、ビジネスアドミニストレーションという学位を出すところはない。経営管理経営学、ビジネス、マネジメントなどと数多くの類似した名称の学位を出している。そして、(ウィキペディアにも記述されているが)専門職大学院と従来の大学院の両方が、MBAのようなプログラムを提供していて、おそらくこの相違は一般的にはあまり認識されていないだろう。そのうえで、もう少し類型を細かく見てみよう。


類型1 狭義の意味での経営に関する 専門職大学院
取得できる学位:経営管理修士(専門職)、経営学修士(専門職)、ビジネス修士(専門職)など。
2009年度までに認証を受けた機関は、ABEST21によるもの5校、AACSBによるもの1校、大学基準協会によるもの(類型2と合わせて)20校。多くの機関がまだ認証評価を受けていないうえに、AACSBは縁遠い存在のようである。


類型2 経営の周辺領域、専門領域(MOT、会計等)の 専門職大学院
取得できる学位:技術経営修士(専門職)、ファイナンス修士(専門職)、会計修士(専門職)など。
2009年度までに国際会計教育協会による認証を受けた機関は7校。


類型3 従来の大学院
取得できる学位:修士(経営学)、修士(マネジメント)など。
AACSBにより、1校が認証を受けている。


類型4 国内で履修可能な外国の大学院


以上のそれぞれが、MBAを通称として用いている。また、MBAのカリキュラムの特徴であるケースメソッドを採用していることもある。一見すると、類型1が正統であるかのように見えるかもしれないが、それは誤解である。国際的には(米国的には?)、類型にかかわらずAACSBの認証を受けている機関が正統なのだろう。また、類型4については、なかには「学位商法」に近いのではないか、と問題視される機関もあるようだ。
ところで、一橋を例とすると、MBAと呼称するものが2つある。1つは、類型3に属する商学研究科経営学修士コースである。これはあくまでも従来の大学院であって、取得できる学位は修士(経営)である。したがって、実務家教員は少ない。また、修士論文に相当するワークショップレポートの執筆が必要となる。もう1つは、類型1に属する国際企業戦略科である。取得できる学位は経営修士(専門職)であって、実務家教員が多く揃っている。
一橋に限らず複数の機関で、類型1と類型3、あるいは、類型1と類型2といった、二元的な通称MBAコースが存在している。こういう状況が存在する理由は各機関それぞれの事情によるものであろうが、一般的には分かり難い仕組みであろう。