私のウェブシラバスには、ブックリストが掲載されています。しかし、いったい何を読めばよいのか、わからなくなってしまっているかもしれません。そこで、今年出版された若者文献のうち、私が出色の出来栄えだと思うものを1冊挙げてみます。


希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 (光文社新書)

希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 (光文社新書)

世界一周クルーズへの乗船を呼び掛けているポスターを見たことがありませんか。ただ単に物見遊山を目的としているのではなく、何らかの「自分探し」が可能になるような印象を受けるポスターです。私は、若者向けのポスターとしては、「神経症は君だけじゃない」(「真流一の会」の説明はこちらでどうぞ www.geocities.jp/get5out/index.htm)と並んで、よく見かけます。この本はクルーズへの参与観察をもとに書かれたもので、現代の若者の希望や諦めが丁寧に描かれています。かつて劇作家の野田秀樹は戯曲のなかで、「ピートフル・ポートプース」として揶揄していました。野田は、作中の人物に「本当にアフリカを思っているわけじゃあない!」と言わせています。では、乗船者は何を「思う」のか、ぜひこの本で確かめてみて下さい。
私の研究に関連する部分で言えば、この夏休みにずっと考えていた、いわゆる「文化的孤島」における教育や人間関係についてです。頂いた課題に取り組んでいるうちに妄想が膨らんでいってしまったのですが、妄想を研究のレベルに引き戻すために、この本はとても勉強になりました。目的性と共同性の枠組みは、そのまま院生、特に社会学専攻の院生に適用できてしまうのでは、などとも思ってしまいました。