文部科学省のウェブサイトに、「平成21年度『大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム』」の申請状況が掲載されている。442の大学、短大、高専から650件の申請があったそうだ。8月下旬には、そのうち約80件が選定されることになっている。
牧野(2009)*1に倣って、申請された「取組名称」を対象として「力」の出現傾向を見てみよう。いちばんの人気は「学士力」である。「人間力」、「社会人基礎力」の人気がないのは、出所の官庁を慮ってのことだろうか。

  • 「学士力」

北海道、東北、茨城、東京医科歯科、お茶の水、長岡技術科学、福井、豊橋技術科学、奈良女子、はこだて未来、静岡県立、愛知県立、大阪市立、広島市立、長崎県立、東北学院、日赤秋田看護、城西、獨協、目白、東京成徳桜美林國學院、駒沢、昭和、昭和女子、東洋、日本、文化女子、法政、東京工科、神奈川、八洲学園、東京未来、金沢星陵、松本、岐阜女子、中京学院、愛知学院、愛知工業、中部、名古屋外語、星城、びわこ成蹊スポーツ、びわこ学院、京都産業、京都ノートルダム女子、京都文京、大阪工業、大阪産業、関西外国語、関西福祉科学、大阪人間科学、関西学院、神戸女子、兵庫、帝塚山、山陽学園、倉敷芸術科学、広島経済、九州女子、立命館アジア太平洋、名寄市立短大、青森中央短大創価女子短大、久留米信愛女学院短大、函館高専長岡高専、松江高専佐世保高専
※北海道は「心の学士力」、長崎県立は「基礎学士力」というように、「○○学士力」を含んでいる。

鳥取、鹿屋体育、東日本国際、國學院、昭和、東京家政、龍谷東大阪、西九州、西日本短大、松江高専

  • 「社会人基礎力」(「社会人力」など)

北海道教育、実践女子、東海学院、埼玉短期、佐世保高専


また、「力」を使った造語の一例を示してみよう。わざわざ「力」を付ける必要があるのか、疑問を感じるものもある。


「学び力」 山形
「きづく力・つなぐ力」 新潟
「京都古典力」 京都府
「学士研究力」 奈良県立医科
「国際人基礎力」 山口県
「学士基礎力」 札幌国際、千葉科学
「国際オピニオン力」 亜細亜
地球市民力」 昭和女子
「人間関係能力」 岐阜聖徳学園
「フロンティア力」 名古屋商科
「つながる力」 大阪経済
「医療人基礎力」 吉備国
「修道力」 広島修道
「メモ力」 松商短大
「技術者力」 釧路高専
「ノート整理力」 弓削商船高
「自己成長力」 高知高専


こうして見ると、求められる学生像の卓越性をめぐって、大学の教職員もまた象徴的闘争に参加していることがよくわかる。「労働者や企業を『診断・調査・支援する』」職業の人びとのみならず、大学人もまた支配的な能力モデルの構築に関わっている。
また、「学士力」はあくまでも参考指針として提示されたものにすぎないにもかかわらず、70ほどの大学、短大、高専が「取組名称」として掲げている。このことは、各大学がみずからの手で学習成果の指針、学位授与の方針を作ることができない、ことを示唆しているようにも見えてしまう。各大学の独自の指針、方針の策定という意味では、「学士力」よりも、その内容はとにかくも「京都古典力」や「国際オピニオン力」の方が良いのかもしれない。

*1:牧野智和「ビジネス誌が啓発する『力』に関する一考察」『教育社会学研究』84、2009