実務の世界ではあまりにも有名であるのに、学術の世界では扱われてこなかったのが「クスキュウ」である。もっとも、近年の成果主義人事の潮流の中で、残念なことに実務家の人事担当者の中にも知らない人が増えているようである。
「クスキュウ」職能資格制度では、職務分析を非常に重視していて、そのうえで絶対評価による能力評価、さらに、本人の能力には還元できない結果を補う情意効果を行うようになっている。日経連に着目する教育学者による「職能資格制度≒一元的能力主義」論で主張されるような「潜在的能力」に着目した相対評価、とは大きく異なっている。この原因を、1)職能資格制度に関する「クスキュウ」と日経連の理解の相違に求める、2)実務・実態とイデオロギーの相違に求める、3)導入時期の相違に求める、いずれが妥当であろうか。ただし、「クスキュウ」の意図通りにはならず、職能資格制度が形骸化したとするならば、確かに「一元的能力主義」論は説得的である。
興味深いのは、70年代の「高学歴化(言説)」が職能資格制度の普及を促進したことである。高等教育進学率の抑制に直接は向かわず(別の筋書きで抑制に向かう)、個別企業内の資格制度の導入によって対応が図られている。この点は、大卒者のグレーカラー化と合わせて論じなければならない。