「初年次教育」がブームとなって久しい。各大学のFDのテーマとしては、お馴染みのものの一つだろう。どんな大学でも必要であると思うのと同時に、しかし、言いようのない気持ち悪さも感じてきた。このアンビバレントな感情の理由が何に起因するのか分からなかったのだが、少しだけその糸口が掴めてきた。
「主体性を発揮する」「目的を持って始める」「重要事項を優先する」「Win-Winを考える」「理解してから理解される」「相乗効果を発揮する」「刃を研ぐ」、これらはA大学の初年次教育の内容・・・ではない。自己啓発の本、セミナーとして非常に売れたらしい「7つの習慣」の7項目である。自己啓発とは、定式化されたある「成功者」(多くは経営者、宗教家、一部には教育研究者もいる)の思考、行動様式を模倣することによって、自らも「成功者」になることを目指そうとするものである。
日本型「初年次教育」は、こうした自己啓発に容易に堕する傾向がないだろうか。「7つの習慣」の7項目を「初年次教育」の内容と言われても、不思議には思わないかもしれない。例えば、大学における他人との関わり方に関しても、理論的基盤の理解なくしては「理解してから理解される」と何ら変わらなくなってしまう。会社員や学生が個人的に「7つの習慣」を試すことに異論はない。しかし、自己と名のつく目標を大学が学生に課することには疑問を感じてしまう。初年次教育は自己啓発の一環である、と明言している大学も複数あるようだが、「成功者」イメージのある種の偏り、理論的基盤の脆弱さを問題にはしないのか。
そろそろ、例えばFDとして、日本型「初年次教育」の批判的検討が行われる時期に差し掛かっているはずである。